1ページ目から読む
3/4ページ目

先輩から秘密のマスターキーを受け取ったが…

 父エドワードは、体罰こそしないが厳格な人だった。イギリスのオックスフォード大学に留学した後、アイビーリーグの一つイェール大学を卒業したエリート。その後、アメリカの軍隊の中でも最も規律の厳しい海兵隊に入り、太平洋戦争を戦った後、証券会社で働くビジネスマンになった。

 クリスマスプレゼントに、サーフボードではなく勉強机を選ぶあたりに、エドワードの人間性と教育方針が現れている。ジェイクは、父の高い期待に応えられない、といつも感じていた。

 ブルックス高校は、エドワードが通った名門校で、兄のジョージもここを卒業したばかりだ。兄は在学中、生徒会長で競艇部のキャプテン、学校のスターだった。

ADVERTISEMENT

 ジェイクは本当は友達のたくさんいる地元の公立高校に通いたかったが、選択の自由はなかった。父は当然のように、ジェイクを自分の母校に入れた。自分と同じ道を歩ませることが、親のできる最大のつとめだと考えていた。

 しかし、親の期待とは裏腹に、ジェイクは本人曰いわく「生意気な劣等生」で、友達とLSD(薬物)をやって週に2日は寮で一晩中騒いでいるような生徒だった。そんな悪ガキぶりが目立ったジェイクは、2年生の終わりに、先輩から見込まれ悪ガキに代々こっそり引き継がれてきた、学校内のどこにでも入れる秘密のマスターキーを受け取った。そして、夏休みが終わって3年生が始まった時、寮の部屋に隠しておいたその鍵を、掃除に来ていた清掃員に見つかってしまったのだ。

小学校の卒業式にて。ジェイク(左)と父エドワード ©BURTON

最愛の兄を失った悲しみと父への怒り

 ただでさえ長い5時間の道のりは、車内の無言の空気でさらに長く感じられた。カーラジオから聞こえるニュースだけが、虚しく車内に流れていた。ジェイクは言い訳をしようと口を開きかけたが、結局やめた。父の横顔がそれを制止していた。

 校長室では「干したスモモ」のあだ名で呼ばれている校長が待っていた。父の時代も兄の時代もこの校長だった。「スモモ」は怒鳴るでもなく、干からびてしまったような顔の皺をさらに深めて、ジェイクと父の顔を見比べ、静かに退学を告げた。父はその通告に逆らうこともなく、校長に短く礼を言って部屋を出た。ジェイクは黙ってその後をついていくしかなかった。再び5時間かけてロングアイランドまで戻る車内、父をどれだけ失望させ、どれだけ恥ずかしい思いをさせてしまったか、後悔に胸がじわじわと締め付けられた。

 ジェイクがこの時期に荒れていたのは、父親が敷いたレールに乗っかって生きていくことに抵抗したかったからだけではない。この前年の1967年、ジェイクが13歳の時、高校を卒業し海兵隊に入隊した兄のジョージが、ベトナム戦争で戦死したのだ。ブルックス高校から海兵隊という、父と全く同じ道を歩んだ兄。姉2人と兄1人の4人兄弟の末っ子で育ったジェイクは、特にジョージとは仲が良かった。最愛の兄を失った悲しみと父への怒りに似た感情が、ブルックス高校での荒れた行動を引き起こしていた。