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「現代の女性が60年代の女性を救おうとしたら?」エドガー・ライトが描きたかった、ロンドンの“闇の底”

『ラストナイト・イン・ソーホー』エドガー・ライト(映画監督)インタビュー

2021/11/30
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 現代の女性エロイーズは、56年の時を超えて、1965年のエロイーズを救おうとする。

 エドガー・ライトの友人クエンティン・タランティーノ監督も1969年のハリウッドを舞台にした『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)を作った。それは1969年に自宅に侵入したカルト集団に惨殺された女優シャロン・テートをヒロインにしている。

「クエンティンの『ワンス・アポン・ア・タイム~』と、僕の『ラストナイト・イン・ソーホー』は、どちらも、60年代に失われた人々への悲しみと喪失感に満ちている。クエンティンの映画はシャロン・テートへの追悼だけど、僕は60年代の英国の女優たちについての本を読んでいて、若くして亡くなったり、不幸な人生を送った女性たちのことを知ってひどく悲しくなったんだ。クエンティンも同じような気持ちになって、こう考えたんじゃないかな。自分の映画で、あの時代に戻ってシャロン・テートを救えないだろうか? それにはどうしたらいいのか?」

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 エドガー・ライトは一拍置いて言う。

「その問いに対する僕なりの答えが『ラストナイト・イン・ソーホー』だと思う。クエンティンと違って、僕の映画のほうは、過去の悲劇を変えることはできないけど、その悲劇を経験して、未来を変えるんだ」

女性を解放したスーパー・ヒロイン

 引っ込み思案だった孤独な少女エロイーズは60年代の幻想に逃避し、サンディと一体化することで、自分の殻を破っていく。そして、60年代のダークサイドを経験したサンディは強さを獲得して生まれ変わる。

「悪しきもの無しに善きものを得ることはできない、ということだよ」

『ラストナイト・イン・ソーホー』は、昨年82歳で亡くなった女優ダイアナ・リグの遺作で、彼女に捧げられている。ダイアナは『女王陛下の007』(69年)でジェームズ・ボンドの花嫁トレイシーを演じたことで有名。

「僕も007は好きだけど、ダイアナに出演を依頼したのは、彼女がエマ・ピールだからさ。『おしゃれ(秘)探偵』(61~69年)の。子どもの頃、テレビで何度も観たんだ。あの番組こそ、僕にとっての60年代のカッコよさそのものなんだ」

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『おしゃれ(秘)探偵』The Avengersでダイアナ・リグが演じたエマ・ピールは、最新のファッションに身を包み、科学者でもある知性で犯罪を暴き、格闘技で悪党どもを退治する、おしゃれで強くて頭の切れる元祖スーパー・ヒロインだった。60年代に女性を本当に解放したのは、ミニスカートよりも、エマ・ピールかもしれない。

INFORMATION

『ラストナイト・イン・ソーホー』

12月10日(金)、TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開

配給:パルコ ユニバーサル映画

https://lnis.jp/

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「現代の女性が60年代の女性を救おうとしたら?」エドガー・ライトが描きたかった、ロンドンの“闇の底”

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