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「前から思いっきり女殴ってみたかったんすよ」菅田将暉・小松菜奈の共演3作を観てわかったこと

2021/11/28
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 町の住人たちが崇めて立ち入り禁止にしている“神さんの海”で、一人自由気ままに泳いで遊ぶコウが、夏芽にこう告げるシーンがあります。

「俺はええんじゃ、海も山も俺は好きに遊んでええんじゃ。この町のもんは全部俺の好きにしてええんじゃ」

 自分は神に選ばれた特別な存在だ……と言わんばかりの発言。しかし、尊大不遜なコウに、都会っ子・夏芽はハマっていくのです。

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未熟すぎる二人の恋愛を象徴するよう

 余談ですが、二人が逆の立場で、もしコウが田舎から東京の学校に転校してきたとしたら、夏芽は恋に落ちてないのではと思います。

 田舎町にいるコウは一際スタイリッシュで輝かしい存在に見えたとしても、洗練された東京男子の群れに放り込まれたら埋もれてしまいそう。コウは“井の中の蛙”であり、夏芽もほかの田舎男子たちと相対的に見ていたから、スーパーイケメンに見えていただけなのかもしれません。

 さて、物語前半で衝撃的だったのが、海沿いの道をチャリでニケツしているシーン。

 “ふぉーっ!”と絶叫してテンションが高くなった二人は、「空ー!」「雲ー!」「虹ー!」「海ー!」と交互に叫び合うのです。未熟すぎる二人の恋愛を象徴するようでした。

 そして中盤に事件勃発。

 夏祭りの夜、熱狂的なファンが夏芽を誘い出し、二人きりになったところで襲い掛かるのです。コウは助けにいくもののその変質者に返り討ちに遭い、情けなく泣きじゃくる始末。夏芽はほかの住人たちが駆け付けたことで助かりましたが、この事件をきっかけにコウも夏芽も輝きを失っていき……。

 前半で美しく描いていた全能感恋愛を、後半で否定していく構造となっているのが『溺れるナイフ』という作品です。

『糸』/ベタゆえに琴線に触れまくる王道ラブストーリー

 奇をてらわない直球の王道ラブストーリー。菅田さんと小松さんのダブル主演映画『糸』(2020年)はそんな作品でした。

『糸』公式HPより

『ディストラクション・ベイビーズ』、『溺れるナイフ』はいずれも若者たちのたぎる衝動を切り取った作品でした。そして、菅田さんと小松さんは、個々にさまざまな作品に出演して磨き上げてきた演技力を、王道作『糸』にぶつけたのです。