浅い眠りと深い眠りを繰り返したと思う。静かすぎる気配を察して目を覚ませば、「WEST EXPRESS 銀河」は紀伊田辺駅に停車していた。ここから単線区間になる。時刻表では和歌山から串本までノンストップだけど、実際は単線区間のすれ違いや運転士の交代などで停車する。
目的地に未明の到着では不便だから、時間調整のために停まる場合もある。夜行列車ではよくある「運転停車」で、鉄道ミステリー小説ではアリバイトリックで使われる。
窓が明るくなるともう寝られない。いや、こんどは寝たらもったいない。始発列車が走る前の早朝の車窓こそ夜行列車の醍醐味だ。だんだん明るくなる景色。私の席は海側ではないから、海の景色は見づらい。海が見たければラウンジへ行けばいい。しかし行かない。もっとベッドでゴロゴロしていたい。列車の中のベッドでゴロゴロ。これもめったにできない貴重な体験だ。
車内で二度寝をしても良いし、自由行動してもいい
そして5時50分。チャイムが鳴って、車内放送で朝の挨拶。そして紀伊有田駅に運転停車。上り各駅停車と行き違い。その次が串本駅。6時4分から8時まで、約2時間の停車だ。
ツアーはここでいったん下車して、早朝バス観光の予定。目的地は本州最南端の名所「橋杭岩」と、和食レストラン空海のカツオたたき丼「漁師の朝ごはん」のセットだ。しかし私は魚介が苦手だからキャンセルした。ツアー料金に含まれているけれども強制参加ではないから、車内で二度寝をしても良いし、自由行動してもいい。
「橋杭岩」は観たいけれど、食事だけキャンセルは不可とのこと。団体行動だからしかたない。でも、地図アプリで調べると、橋杭岩までは徒歩25分程度の道のりだ。ならば早朝散歩としよう。街並みを通り抜け、海岸沿いを歩いた。散歩中の犬と触れあったり、日の出後の漁港の写真を撮ったり。バス旅ではできないことをやってみた。橋杭岩でツアー一行と合流して、ガイドさんの話を聞く。帰りのバスに乗せてと頼むのは癪だから、また歩いて戻った。歩数計アプリの今日のノルマを達成できた。
駅の近くでコンビニに寄り、朝食用のサンドイッチを買う。つくづく便利な世の中になったと思う。
紀勢本線のこの区間は36年ぶりの乗車だ。当時、私は高校生で、天王寺発の夜行鈍行で津まで乗りとおした。あの頃はコンビニなんてなかったから、腹を空かせて、途中の新宮駅でめはり寿司の駅弁を買った。ご飯を葉っぱでくるんだ質素な弁当が、食べ盛りの高校生にとって不思議なくらいおいしかった。その後、あれより美味いめはり寿司に出会っていない。空腹が美化した味かもしれない。