「WEST EXPRESS 銀河」のキーワードは「カジュアル」「くつろぎ」「多様性」だ。ツアー料金は3万円前後からスタートする。車内に高級レストランを備えていないこともあってドレスコードはなく、普段着でだいじょうぶ。「もっと気軽に列車の旅を楽しんでほしい」というコンセプトには合っているけれども、それは作られた旅であって、自分の旅ではない、という思いがある。自由度の高いツアーだったけれども、制約はある。
「個の志向」への配慮
私の場合、その思いを強くする場面は食事だ。往路も復路も串本でカツオの丼または刺身が提供され、ツアー料金に含まれる。魚介が苦手な私にとって、食事を選べないのがツラい。好きなもの食わせろと思う。だから帰路のカツオたたきツアーの時間はトルコ料理店を見つけてケバブライスを食べた。串本はトルコと縁が深い町だ。1890年に日本へ親善使節団を派遣したトルコの船「エルトゥールル号」が串本沖で遭難し、串本町大島の人々が不眠不休で救助した。その縁もあって、トルコ料理を出す店がある。
廉価なツアーだから文句は言えないけれど、高額なツアーでも食事を選択できない商品が多い。あれが私には不思議で仕方ない。国際線のエコノミークラスでも機内食を2種類から選べるというのに。日本人は海老や蟹や刺身でも出しとけばいいと思っているのだろうか。観光再起動、インバウンド復活の気運も高まる中で、日本の観光業界はもうすこし「個の志向」に配慮があっていいと思う。外国人観光客がマクドナルドへ行ってしまうと嘆く前に、彼らに合わせた食事が開発できているだろうか。
ウィズコロナの時代になっても
高額なツアーなら個別に対応してくれるというけれど、そこにツアーのコンセプトは反映されているだろうか。だったら参加するなと言われそうだけど、ツアーに参加しないと「WEST EXPRESS 銀河」に乗れない。ツアー旅行は団体ならではの特別な体験や料理もあり、その魅力はわかる。しかし「WEST EXPRESS 銀河」は「特別な体験」のための列車ではなかったはずだ。もっと自由な個人のアイテムとして作られた。ウィズコロナの時代になっても、もっと自由に夜行列車を楽しみたい。そんな期待に応えてほしい。
写真=杉山淳一
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