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駅弁のめはり寿司が好きだった

◆2021年9月7日 9時5分

 9時5分、紀伊勝浦に到着。発車は9時10分。降りる人のための停車で、停車時間が短いから一時外出はできない。このツアーでは、乗車駅を京都・新大阪・天王寺から選べて、降車駅も串本・紀伊勝浦・新宮から選べる。片道だけのツアーも選べるし、翌日の便で往復乗車も可能。紀南地域では串本、紀伊勝浦、新宮の各地にオプションツアーが用意されている。私は「串本海中公園センター入場券」と「熊野御坊南海バス 悠遊フリー乗車券」を選んだ。オプションと下車駅は一致しなくて良いので、新宮まで乗り通しても串本のオプションを選べる。せっかく乗ったからには全区間乗り通したい。

 終着駅の新宮には定刻の9時37分に到着。ツアーはいったん解散した。夜行列車の旅は到着した朝から行動できる。私は串本行きのきっぷを買って、また電車に乗って串本へ。串本海中公園センターの水族館と海中展望塔を見物した。全部みても2時間くらいだろうと思っていたけれど、期間限定の近大マグロの歴史展が興味深く、映像展示をすべて見たら思いのほか時間が経っていた。浦島太郎みたいだ。熊野本宮大社に行く予定は取りやめた。

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新宮に到着

 翌日は昼頃の発車までゆっくりしようと思ったけれど、せっかく買ったバスのフリーきっぷを使わないともったいない。バスの時刻表を調べたら、朝イチのバスに乗れば、熊野本宮大社を訪問して、「WEST EXPRESS 銀河」の発車に間に合う時間に戻れるとわかった。あいにくの小雨だったけれど、熊野本宮大社を参拝。静かな佇まいで気持ちが休まる。コロナ終息を願って護摩木を納めた。

めはり寿司に感じた違和感の正体

 バスの窓から見えた大鳥居が、どうも本宮の位置とズレている。バスターミナルに併設の展示館でその理由がわかった。熊野本宮は水害に遭って丘の上の現在地に移転し、大鳥居だけが残された。なるほどね。

こちらが現在の参道に続かない大鳥居。旧本宮跡地に通じる

 新宮駅に戻り、駅前広場に面した寿司屋の売店に行く。36年前のめはり寿司が食べたかったけれども、平日はめはり寿司は用意していないという。新宮駅に駅弁屋はなく、ほかに買えるところはないかと聞いてみた。白ゴマ入りごはんを高菜で包んだシンプルなめはり寿司。どこにでもありそうだけど、同じ味を作っている店はないだろうとのこと。

ランチのお弁当。めはり寿司、マグロ、ナマズ、イノシシ……紀南の素材をふんだんに盛り込んだ

「駅弁のめはり寿司、覚えていますよ。ただしあれはね、日持ちするように酢飯で作ってたんです」

 そうだ。思い出した。酢飯だった。その後、めはり寿司に感じた違和感の正体は酢飯だった。しかもそれはめはり寿司としては異端の存在だったようだ。私は異端の味を本場だと信じて、36年間も探し続けていたのか……。謎が解けたけど、あの味は帰ってこない。