計画どおり、県警の担当官と小倉南署長が口頭で中止命令を行った。I総本部長らは命令の意味が分かっていないようだった。私は再びマイクを取った。同様の警告を繰り返し、さらには警告に従わない場合、警察は止むを得ず、暴力団対策法違反で全員を検挙する、と警告した。私の警告に合わせ、第二機動隊長が隊員に号令をかけた。
県警が本気で逮捕するつもりだと気付いたのだろう。工藤会組員らは慌てて正門のシャッターを下ろし、『四代目工藤会長野会館』の看板が掛かった金属製門扉を閉めた。
事務所撤去運動に関わった市民宅に銃弾が…
私は、工藤会がこのまま引っ込んでいるわけはないと思っていた。長野会館に対しては、小倉南署員が1時間おきにパトロールを行っていた。翌日午前1時半ごろ、巡回中の小倉南署員が『四代目工藤会長野会館』の看板が撤去されていることを発見した。
県警では上貫地区の自治会関係者方等に対しては重点的にパトロールを行い警戒していた。しかしそれでは不十分だった。3日後の3月15日午後11時20分ごろ、事務所撤去運動に加わっていた小倉南区自治総連合会会長の自宅に銃弾が撃ち込まれた。犯人は道路に面した玄関に向け4発、さらに勝手口から室内に向け2発を撃ち込んだ。銃弾の一部は寝ていたご家族の直近をかすめている。自治総連合会は上貫地区自治会の上部団体だが、地区外の連合会会長は保護対象とはしていなかった。長野会館を巡る新聞報道の一部に、連合会会長のインタビューが載っていた。それが狙われた一因かもしれない。この銃撃事件については、福岡県警による粘り強い捜査の結果、平成29年11月、工藤会瓜田組・瓜田太組長ら6名が逮捕、起訴された。瓜田組も田中組系列組織だ。
住民は屈しなかった
正直なところ、この事件発生により暴追運動は尻すぼみとなるのではないかと強い不安を感じていた。だが、住民の皆さんは暴力に屈しなかった。当初の計画どおり、発砲事件3日後の3月18日、前回を上回る約650人が参加し、再び長野会館に向け暴追パレードを行った。前回のような威圧行為を阻止するため、パレードに合わせ県警はある事件に関連し長野会館に対して捜索・検証を行った。立会人以外の組員は全員を排除した。再び平日のパレードだったが、小学生や幼稚園児の父母たちの姿もあった。
この日、警察庁の安藤隆春長官は定例記者会見でこの銃撃事件に触れ、「断じて許されるものではない。取締りを徹底し全容を早期に解明する。保護対策に万全を図る」と表明した。
福岡県警は、小倉南署を中心に、長野会館付近での24時間態勢の警戒、住民運動関係者に対する保護対策を強化した。小学校や幼稚園の登下校時には、制服警察官を配置し警戒を続けた。時には署長自らも長野会館前に立った。署長は刑事部門出身で、3月6日に着任したばかりのO署長だった。