「君たちの存在自体が威圧だ」
このしばらく前の2月18日、小倉北区の工藤会本部事務所に対し、初めて暴追パレードが行われた。ところが参加者が本部事務所前を通りかかると、工藤会側はそれまで閉めていた正門の門扉を開放し、敷地内から黒のスーツ姿の組員らがパレード参加者を威圧し始めたのだ。中には参加者にビデオカメラを向ける者もいた。警戒中の警察官が組員に対し警告を行ったが、最初、彼らは警告に従わなかった。警察官が正門前で人の壁を作り、パレードは続けられたが、正門付近に差し掛かると参加者は押し黙ってしまった。
この時の反省から3月12日、県警は第二機動隊を出動させ、私は現場警戒班を担当し、第二機動隊長とともに機動隊指揮官車の台上に登った。既に工藤会の組長クラスの幹部や組員多数が、長野会館に入っていた。パレードが近づいてくると予想どおり、閉めていた玄関シャッター及び車が出入りする通用門の門扉を開放し、黒スーツ姿の約70人が敷地内に整列した。その最前列には、工藤会執行部I総本部長以下組長連中が勢揃いしていた。少しでも威圧感を減らすつもりか、ほとんどの者は接客業の人がするように両手を腹の前に組んでいた。
工藤会本部事務所前パレードの反省から、県警は工藤会側に対する積極的な対処方針を決定していた。暴力団対策法が改正され、指定暴力団の事務所の使用差止めを求めた者に対し、不安を覚えさせるような方法で妨害したり、そのおそれがある場合、都道府県公安委員会は中止命令を行えるようになっていた。彼らの行為はまさにそれだ。そして中止命令に違反すれば、彼らを現行犯逮捕することができる。パレードが近づいてきたので、私は指揮官車のマイクを使い、I総本部長名指しでパレード参加者に対する威圧行為を止めるよう警告した。
「威圧なんかしてないやないか!」名指しされたI総本部長が指揮官車に駆け寄り、私を見上げながら怒鳴った。「君たちの存在自体が威圧だ。直ちに門を閉めなさい」私は再び警告した。忌々しそうにI総本部長は会館内に戻った。やはり彼らは警告に従わなかった。パレードは会館の50メートルほど手前で止まってもらい、住民代表の方が、事務所撤去の要請文を工藤会側に手渡すことにした。会館前には、機動隊員と捜査員で人の壁を作った。これも予想どおり、工藤会側は要請文の受け取りを拒んだ。