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日本の暴力団対策の「天王山の戦い」

 約一年が経過していた。福岡県の暴力団対策の大きな転換点だったと思う。何よりも市民が勇気をもって県警や県、北九州市についてきてくれた点が大きい。市民の勝利、工藤会の大きな戦略的失敗だ。当初、住民からは不安の声も聞かれた。報道によると、長野会館前が通学路だった貫小学校では、会館開設直後は4分の1の保護者が、長野会館前を通学させることを恐れ、自動車で送り迎えしたと言う。転居を検討する人もいた。だが、むしろ子供や孫を幼稚園や小学校に通わせている市民から聞こえてきたのは怒りの声だった。小倉南署は長野会館前に仮設警察官詰所を設置し、24時間態勢で警戒を行った。当初、不祥事が続いたが、むしろ市民からは徹夜で勤務する警察官に対し激励や時には差し入れが続いた。

 当時の安藤隆春警察庁長官は、暴力団対策、中でも山口組、特にその中核となった弘道会対策に力を入れていたが、4月13日、自ら長野会館視察、北九州市長への激励に福岡に来られた。そして我々捜査員に対しても「日本の暴力団対策の成否は北九州市での捜査にかかっている。まさに日本の暴力団対策の天王山の闘いだ」と訓示した。安藤長官はその後、全国警察に対し、暴排条例の有効性と条例制定を呼びかけた。その結果、平成23年10月、東京都と沖縄県を最後に暴排条例は全都道府県で制定されることとなった。

 その後も、福岡県知事、北九州市長及び福岡市長は、国家公安委員会や警察庁に対し「暴力団壊滅のための抜本的法的措置に関する要望書」を提出した。それには暴力団対策法の抜本的改正、暴力団等犯罪組織に対する有効な捜査手段の導入、暴力団の所得に関する調査・徴収の徹底、各省庁における許認可事務等における暴力団排除規定の整備等が書かれている。現在もなお通じる内容だ。警察庁は、平成24年、暴力団対策法を改正し、特定危険指定暴力団や特定抗争指定暴力団等の規程を整備した。同年6月の改正法国会審議には、北橋健治北九州市長も参考人として出席し、その必要性などを訴えられた。

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