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「玄関に4発、室内に2発…」一般家庭に放たれた弾丸…それでも北九州市民が工藤会の“追い出し”に成功した“驚きの理由”

『福岡県警工藤会対策課 現場指揮官が語る工藤会との死闘』より #2

2021/12/18
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老人ホームに生まれ変わった長野会館

 署長自ら市民の前に出る、当然と言えば当然のことだが、この時、小倉南署は不祥事が続いていた。3月12日、まさに第1回暴追パレードの日、小倉南署の巡査部長(当時31歳)が強制わいせつで逮捕された。25日には、小倉南署管区機動隊小隊長(当時29歳)と分隊長(当時31歳)が部下へのパワハラで処分を受け公表された。4月7日には、小倉南署とは直接関係ないものの、隣接する小倉北署の巡査部長(当時31歳)が女子中学生に対する児童買春容疑で逮捕された。

 私は、小倉南署に常駐していた北暴課特捜班に立ち寄る際には、署長室にも顔を出していた。3月13日、署員の決裁報告の後、署長室に入った。私にソファを勧めてくれた署長は自ら対面のソファに腰を掛けた。その顔には沈痛な表情が浮かんでいた。署員には見せられない表情だが、顔見知りの私を前に、つい出てしまったのだろう。小倉南署員の不祥事等は、いずれもO署長着任前の問題だった。だが次の瞬間、O署長が口にしたのは、何としても長野会館から工藤会を追い出そう、そのために北暴課長の私にもぜひ協力してもらいたいとの言葉だった。

 登下校時の警戒には、学校の先生方や自治会関係者、さらにはガーディアン・エンジェルスなど防犯ボランティアの方々も協力していただいた。

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 3月29日、積極的に長野会館問題に取り組んでいた北橋健治北九州市長に匿名の脅迫状が送りつけられた。同様の内容の手紙は一部報道機関にも送られた。脅迫状には市長周辺に危害を加える旨が書かれていた。だが、市長の決意は揺るがなかった。

 3月30日、当初の予定どおり、暴追パレードが行なわれた。麻生渡知事も急遽参加し、住民代表、市長、県警本部長、小倉南署長らと、長野会館にパレードを行い、事務所早期撤去を訴えた。他の地域からも多くの市民が参加し、約1800人が長野会館前をパレードした。

 工藤会側はその後も、小学校などにファックスを送りつけたり、看板を次々と取り替えたりしたが、落とし所を探り出したようだった。ある医療法人が購入を検討しているとの情報も聞こえてきた。10月2日、新聞各紙に北九州市内の医療法人が長野会館を購入し、老人ホームを建設しようとしているとの記事が載った。情報どおりだった。翌年2月24日、医療法人が正式に長野会館を約1億5000万円で購入したことを発表し、翌日には報道機関に長野会館内を公開した。現在、そこは老人ホームに生まれ変わっている。