年下に完敗したと感じた瞬間だった
自分が作るシステムコントよりスマートで、かつ枠からはみ出さないシンプルな構成、そして余計な笑いもないがポイントポイントで確実に笑わせる、すごく美しいコントだった。ネタを作った升野君は僕より2歳年下で当時19歳。映画学校の同級生とバカリズムというコンビを組んで、まだ2回目か3回目くらいのライブ出演だった。年下に完敗したと感じた瞬間だった。
「なぜ? これにいつ気づいた?」
「どこまで気づいてる?」
「ネタは何本あるんだ?」
僕はそれが聞きたくて仕方なかった。しかし、自意識の高い人間は人見知りが多い。もちろん僕もそうだ。「向こうから話しかけてこないかな?」と思い、しばらく待っていたが、そんな気配はまったくない。そりゃそうだ。あんなコントを作る人間は絶対、笑いの自意識が高い。ということは人見知りの可能性も高い。じゃあどうすれば知り合いになれる? 自分から話しかけるしかないのである。
僕は、高校に入学してから、夏休みくらいまでほぼ誰ともしゃべれなかった。理由は高校浪人をして、クラスメイトは全員1つ年下だったからだ。入学初日、僕はそのことを隠すかどうか悩んだが、後々バレたら厄介だと思いクラスメイトの前で自己紹介する時、「僕は高校を入るのに浪人したのでみんなより1年先輩です。よろしくお願いします」と言った。その瞬間、教室が凍りついた。それ以降、クラスメイトは僕に接しづらそうにしていた。僕も変なプライドが邪魔して誰ともしゃべれずにいた。このままではまずい、と思った僕は自分から積極的に話しかけた。「1つ上とか気にしなくっていいよ! 呼び捨てでいいよ! 良(僕の名前)って呼んで!」
こうしてクラスのみんなと打ち解けて、僕は友達の輪に入れた。のちにクラスメイト男3人、女2人でカラオケに行って、僕を抜いた4人がカップルになり、翌日「なんで俺をカラオケに誘ったんだよ!」と聞いたら「お前がいると盛り上がるから」と言われるくらい仲良くなれたのだ。