昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/12/26

何よりずば抜けていたのは演技力

 当時フジテレビの深夜番組で『MarsTV』という芸人のコントとAV女優のストリップを交互に見せていくという、恐ろしくオシャレな番組でバナナマンがネタを披露したのだ。それは「パピヨン病」というコントで、病院にいった設楽が医者の日村から「パピヨン病」という謎の病気だと診断され、隔離され、最後は宇宙に打ち上げられる……という展開なのだが、YouTubeにその映像がアップされてるので(本当はいけないのだが)見てほしい。

 僕はそれを知り合いから貸りたビデオで見た。

「シチュエーションコントだ!」

 病院というコントではありがちなシチュエーションだが、話の展開はありがちではない。医者である日村がパピヨン病の患者である設楽に優しい言葉をかけながら、しかし、残酷に隔離していく。そんな扱いをうける患者・設楽は悲しい表情を見せながらもそれを受け入れていく。ネタの構成力はもちろん、何よりずば抜けていたのは演技力だった。3分ちょっとの短い時間で話がドラマチックに展開し、人間の機微を見せていく。当時の若手の中では唯一無二のコントだった。

 バナナマンのコントが終わると、僕はテレビを消して、しばらくぼーっと天井を見上げた。

 自分が諦めていた理想のコントがそこにはあった。

「バナナマンってどんなネタをやるんだろう?」というモヤモヤはなくなったが、「自分とほぼ同じ歳でこれを表現できる人間がいるのかぁ」という新しいモヤモヤが生まれた。そうこうしているうちに、バナナマンの名前はあっという間に東京ライブシーンに広まっていった。僕は一方的にバナナマンを意識し、バカリズム以上にライバル視するようになっていった。

 そんなある日、お笑い好きの女の子と飲む機会があったのだが、ちょっとタイプの子だったので、仲良くなろうと話していると、彼女は「長井秀和は天才」というトークをはじめた。当時の長井秀和さんと言えばシュールでブラックなネタをする孤高のピン芸人として、ライブシーンではカルト的人気を博していた。僕も長井さんのことは好きだったので黙って話を聞いていたのだが、彼女が「長井秀和はバナナマンより天才」言った瞬間に火がついてしまい、仲良くなろういう目的を忘れ「どっちが天才か?」を朝までほぼケンカのように語り合ったこともあった。気づくとライバルを越え、もうただのバナナマンのファンみたいになっていた。

【続きを読む】《人気放送作家の下積み時代》「何があっても今日はバナナマンにすり寄る…」人気放送作家オークラがバナナマン設楽統を口説き落とした“決死の作戦”

自意識とコメディの日々

オークラ

太田出版

2021年12月3日 発売

この記事の写真(2枚)

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー