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「なぜ? これにいつ気づいた?」「ネタは何本あるんだ?」“3人目のバナナマン”と呼ばれる放送作家が“才能に驚愕”した芸人とは

『自意識とコメディの日々』より #1

2021/12/26
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バカリズムはピュアな天才

 そんな過去の経験から、興味を持った人にはなるべく自分から話しかけなきゃダメだと学んだ僕は、バカリズムに話しかけた。この時、自分がどう話しかけたか覚えてないが、のちにバカリズムから、ものすごい目をギラギラさせた男が「あのネタってこういうことなんでしょう? 俺わかってるからね」、「同世代にロクな芸人はいない。みんな亜流のネタばっかりだ!」、「俺達は同志だ!」みたいな感じでアピールしてきた……と、回顧された。なのでバカリズムに「実は俺は人見知りだ」と言ってもいまだに信じてもらえない。

 それ以降、バカリズムとはライブで会うたびにネタの話をするようになった。最初は「この男に舐められるわけにはいかない」との思いから自分の知っているネタの研究成果を語りまくった。「あのネタは〇〇ネタのパターンで」とか「シティボーイズライブは~~で」とか。

 当時の僕は、バカリズムを自分と同じく「芸人の笑いはもちろん演劇や映画や本など他ジャンルの笑いを紐解き、自分なりに体系化している男」だと思っていた。僕と同じくシステムコントの方法論に気づいている唯一の男であり、ライバルだと感じていた。

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 だから、サブカル男が情報量で相手にマウントをとる感じで、理論と知識で負けたくなかったのかもしれない。しかし、仲良くなっていくと次第に、自分とは違うタイプだということがわかってきた。バカリズムは知識や情報量ではなく感覚的にネタを体系化していた。つまりピュアな天才であって、こっちがマウントをとるために言ったさまざまな知識に対して「こいつ俺より知ってる!」ではなく純粋に知識として受け取ってくれていたのだ。

 結果的にバカリズムは2つ下の後輩として、先輩の僕をリスペクトしてくれるようになった。まあ知ってる人は知ってるかもしれないが、バカリズムは福岡の少し不良の多い地区の出身で、かなりの縦社会で幼少期を過ごしてきたから、リスペクトというより、先輩に対して礼儀がしっかりしているだけなのかもしれないが……。