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どこかに本当のお父さんとお母さんがいるにちがいないと信じていた

──お父さんとの関係を詳しくうかがいたい。まず、お父さんのここがすごいなと、あるいはここがダメだなというのをそれぞれ言っていただけると、関係がわかりやすくなると思います。

小泉 すごいのは、父親・小泉純一郎として惜しみない愛情を注ぐところ。子どもの立場からすると、一点の曇りもないほど愛しているってことを、愛という言葉は絶対使わないけど、離れていても、家にいなくても、そこが揺らぐことはなかったですね。そのお陰で自信がついたし、自己肯定感につながった。

 一番象徴的なのは、中学二年生のとき、学校の三者面談に親父が来てくれたんですよ。学校の先生は、「もっと進次郎君にリーダーシップを取ってもらいたいから、お父さんから進次郎君に言ってくれませんか」と言った。そうしたらうちの親父は、「私は、進次郎はそのままでいいと思います。私も政治家の息子だから、進次郎の思いもよくわかる。おそらくいいことをしても悪いことをしても、政治家の息子というだけで目立っちゃうから、あまり前に出ようとは思わないんでしょう。進次郎はそのままでいいと思います」っていうことを言ってくれた。そのときに、衝撃を受けたんですよ。

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──首相時代、箱根でキャッチボールをされた。

小泉 ええ。幼いころのことでよく覚えているのは、親父が車で横須賀に帰ってきて、車から降りて僕と孝太郎とキャッチボールだけして、またそのまま車に乗り込んで戻って行った姿です。だからほんとに今自分が政治家になって、これだけ忙しい日々を過ごすようになってから、子どものためにキャッチボールのためだけにそうやって時間をつくってくれたということが、いかにありがたいことだったか、改めて感謝しますね。

福田 うちはもう淡々ですね。プロの親子なんで。

小泉 プロ親子?

ムチャクチャ厳しい父に「どこかに本当のお父さんがいるにちがいないと信じていた」。

福田 プロの親子なんです、うちは。うちの親父も愛情量は多いんだけど、出し方がヘタクソなんです。愛情表現がメチャクチャ下手で、たぶん恥ずかしいのだと思いますが、それがなかなか伝わらない。そこが大きな欠点ですね。親父は子ども好きだったんだろうなあという推測はできるんだけど(笑)、いまいち実感はないみたいな、そんな感じですかね。

 たぶん親父もそうだったんじゃないですかね、自分の父親との関係が。親父は兄弟が七人いるんだけど、うちの祖父は親父にだけ厳しかったらしい。親父は惣領(跡取り)だった。他の兄弟はほぼ全員楽観的なんですよ。基本的に人生エンジョイ型なんだけど、親父だけが克己型。僕は小さいころ、親父が家にいると怒られるから、いてほしくなかった。基本的には。

──そんなに怒られたんですか。

福田 ムチャクチャ厳しかったですよ。うちは外に対しては優しいですが、家族に対しては厳しいですから。僕は親父にもおふくろにも、ときに殴られることもある、かなり厳しい育てられ方をしたので、どこかに本当のお父さんとお母さんがいるにちがいないと信じていた。下村湖人の『次郎物語』が座右の書で、いつか優しい本当の両親が迎えに来るんじゃないかと信じていたくらいなので、僕はホームシックになったことがないんです。家の外に出るのが大好きだった。合宿でみんなホームシックになって家に帰りたいと言っていたのに、僕だけ合宿が終わるとうんざりして、またうちに帰るんだと思った。

小泉 おもしろいね。

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子どもができたら、俺は絶対に食べたいものは何かって聞いてあげよう

──小泉さんはお父さんに似たくないけど、似てしまったところはありますか。

小泉 意識して似たくないって思うところは特にない。ただ、なるほどと思うのは、うちの親父、ワンフレーズってよく言われたじゃないですか。これは必要だったからワンフレーズになったんだということが、自分がこの立場になってよくわかりました。というのは、マスコミは自分の都合がいいように発言を切るから。ワンフレーズだったらどこも切りようがない。

 あ、ひとつあった。これはいつか自分の子どもができたら、似たくないなと思っているところ。それは、外食に行ったときの注文の仕方で、真似しないようにしようと思います。今でも忘れないのは、うちの家族、親戚がみんなであるイタリアンレストランに行ったとき、うちの親父はメニューを見て、「よし、パスタ全種類」。ポカーンでしょ(笑)。「パスタ全種類。ちょっとずつ食べようじゃないか。全種類持ってきて」って。子どもって一人で一つ食べたいんですよ。ハンバーグだったらハンバーグ一つ食べたい。別にちょこちょこいろんなの要らないんです。

 俺はたらこスパゲティだけ食べたいと思っていても、それがかなわなかった。もう少しおとなになってから、僕の従弟とうちの親父含めてご飯食べに行ったとき、僕は注文する前に、従弟に対して、「いいからな。自分たちが食べたいの頼んでいいからな」ということを言ったんですよ。思いやりを持って言ったところ、なんと梯子を外したのはうちの兄貴だった。「いいじゃないか、面倒くさいから」って言って、結局、うちの親父がまた決めて、そこでなんかすごい孤独を感じた。だから、子どもができたら、俺は絶対に食べたいものは何かって聞いてあげよう、そこは真似しないようにしようと思った。