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「和食=がん予防策」の落とし穴 がんにならない食生活#1

2017/12/04
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3 積極的に摂るべき食材は「野菜と果物」――1日400グラムが目標 

 反対に、がん予防のために日本人がより積極的に摂るべき食材に「野菜と果物」があります。 

 一口に野菜と果物と言っても多岐にわたり、構成する栄養素も様々。どの野菜がどのがんにいいのか――という個別の研究も進んでいます。 

 例えば、ブロッコリーやキャベツに含まれるイソチオシアネートという物質が、活性化された発がん物質を解毒する作用を持っていることがほぼ解明されており、特に食道や胃などの上部消化管のがん予防に有効な働きを示すことが分かってきています。 

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 それ以外にも多くの野菜と果物に含まれるビタミンCによる抗酸化作用なども、がんを抑制する何らかの働きがあるものと考えられています。 

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 今後の調査研究に大きな期待が寄せられているところですが、残念ながら日本人は野菜と果物の摂取量が必ずしも十分とは言えません。 

 国際基準では一日当たりの推奨摂取量を「野菜と果物を合わせて400グラム」と定めています。しかし、2013年の国民健康・栄養調査によると、日本人の「野菜と果物」を合わせた一日当たりの平均摂取量は400グラムですが、特に若い世代ほど摂取量が少ないという傾向が見て取れます。  

4 どんな食材でも「適量を守る」――過剰でも不足でも危険 

 ただ、ここで注意しておかなければならないのは、がんの予防効果が期待できる食材でも、「適度な量」を過剰に超えて摂取すると、本来の効果が得られないどころか、逆にがんのリスクを高める危険性を孕んでいることもある、という点です。過不足なく、適量を食べることを心がけることが重要なのです。 

 例えば、β-カロテンという栄養素の名前を聞いたことがある人は多いと思います。シソやニンジン、パセリなどに多く含まれる物質です。これらの食材の名前を見ただけでも「健康に良さそう」というイメージが湧きますが、実際にこうした食材として摂取する分には、β-カロテンはがん予防に効果的な作用を持つ栄養素ということができます。 

 がんは、体内で発生する活性酸素という悪玉物質が遺伝子を傷付けることで発生していきます。そしてβ-カロテンはこの活性酸素の働きを抑え込む作用を持っていることから、がん抑制物質として期待されているのです。 

 しかし、これを摂り過ぎると逆の働きをする、つまり、がんができやすい環境整備に寄与することが分かってきました。 

 これはサプリメントを使った大規模ランダム化比較試験から見えてきたことです。ランダム化比較試験とは、何らかの効果が期待できる製剤やサプリメントと、何の成分も入っていない製剤を、本人にはそのどちらであるかを伝えずに摂取してもらい、効果を比較する研究です。 

 アメリカ、フィンランド、中国で、β-カロテンを使った大規模なランダム化比較試験を行ったところ、中国では胃がんのリスクが下がったのに対して、アメリカとフィンランドでは逆に肺がんのリスクが上がるという結果が出たのです。 

 これは、その国の人が元々持っている抗酸化物質のレベルの違いによるもの。中国人は血中の抗酸化物質のレベルが元々低いので、そこにサプリメントでβ-カロテンを補うことで抗酸化作用が発揮されたものと考えられます。それに対して欧米人は、元来血中の抗酸化物質が多いため、そこにサプリメントを摂取すると抗酸化物質が過剰状態となり、がん予防の観点から見ると「逆効果」となってしまうのでしょう。 

 同じことは葉酸やビタミンEなどの栄養素でも確認されています。 

 葉酸はレバーに含まれる栄養素です。妊婦でこれが不足すると胎児の神経系にダメージが及ぶ他、酒好きの人でも葉酸を積極的に摂ることで大腸がんなどのリスクが下がるということが示されています。 

 ところがこれを過剰に摂取すると、反対にがんのリスクを高めてしまうという調査結果が示されました。

 葉酸は細胞分裂のエネルギーになるので、体内に過剰に存在すると、それががん細胞の増殖にも役立ってしまうのです。