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 9月15日までにワクチンを受けなかった医療関係者は就業停止になった。公衆と接しない部署への異動や休職で対処し、衛生パスの適用が終わる日まで待つことになる。

 衛生パスは当初、11月15日までをめどに導入されたが、冬の感染リスクを考慮して延長したところ、案の定、オミクロン株も出現して、9月以来改善していたフランスの感染状況は再び4月以前の入院患者、重症患者数にまでふくれあがり、解除の話はたちどころに消えた。ヨーロッパ各国で外出禁止や夜間外出禁止、学校閉鎖などの対策がとられる中、フランスはワクチンを頼りに何も閉鎖せずに乗り切る構えだが、18歳以上の全てのワクチン接種者に3回目の接種を呼びかけている。2022年1月15日以降は、2回目の接種の後、7ヶ月後に3回目を受けない場合、衛生パスが無効になる。

衛生パスの偽造が小ブームに

 そんな衛生パスだが、現実には方々で綻びも見られる。まず、チェックしない店がある。いつQRコードを取りに来るのかな、と思っているうちにお会計を済ましていたということも起こる。また長距離交通機関もそうだ。私はフランスに戻って以来、TGVに3回乗ったが、一度も衛生パスの提示を求められなかった。駅員は、乗車切符のQRコードを読み取るのに精一杯で、衛生パスまでやっていたらTGVが発車できないのだろう。

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 それに私個人の経験ではないが、衛生パスの偽造がちょっとしたブームになっているそうだ。偽造QRコードを入手するために300ユーロも払う人々がいるのである。とりわけワクチンなしでは仕事ができないという人々がこの手段に訴えるらしい。私などは無料でワクチンを受けた方がいいと思ってしまうけれど、安全のために自由を譲り渡していく時代という見方をすると、偽造衛生パスに300ユーロも払うというのは、自由を守るレジスタンス行為に見えてくるから面白い。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2022年の論点100』に掲載されています。