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2022年の論点

スマホを忘れるとカフェにも図書館にも入れない…フランスに学ぶ、新型コロナ「ワクチンパス」の功罪

2021/12/31

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 社会, 国際, 医療, ライフスタイル

 長い長い間、閉まっていた店が開いて、カフェのテラスに人々が集うようになった2021年6月、私は1年半ぶりに日本に帰るためもあって早々に2回のワクチン接種を済ませ、その場でスマートフォンのコロナ関係アプリに接種証明のQRコードを読み取らせた。いつ提示を求められても対応できるように。

 このワクチン接種証明は、残念ながら日本入国の時には全く提示を求められなかったが、フランスに戻る時には一転、大いに役に立った。飛行機に乗る72時間前のPCR検査を受けなくてよかったからだ。フランスはワクチンが2回済んでいれば、それだけで入国できる(12月4日以来、PCR検査の陰性証明が再び入国に必要になった)。

※写真はイメージ ©iStock.com

ワクチン証明が「開けゴマ」の役割

 8月半ばに戻ったフランスは、ワクチン証明が「開けゴマ」の役割を果たす、不思議な世界だった。6月にはまだ外国行きの飛行機に乗るときくらいにしか必要でなかったワクチン証明が、カフェやレストランに入るにも求められる。私の留守の間に、「衛生パス」の適用範囲が大幅に広がっていたのだ。

 映画館や展覧会も開いて、街はほとんどコロナ以前に戻ったようだったが、ただどこに行くにもいちいち衛生パスの提示を求められる。そのたびにスマートフォンを出してQRコードを読み取らせる。一瞬で済むこととはいえ、毎回、これをしなければならない。やたらといろいろなところに、自分の来た跡を残して行くというのもなんとなく気になる。その気になれば当局は、私の足跡を全部辿れるのではないだろうか……?

 そもそも私の行動の自由がスマートフォン次第というのも考えてしまう。以前から、パスワードというものを忘れると私が私であることをPCに認めさせられなくなることに焦燥感を抱いていたが、スマートフォンを忘れるとカフェにも図書館にも入れないというのも似たような苛立ちを感じる。スマートフォンなんて、ほんの10年前には私は持っていなかった。便利な道具というのが逆に私たちを管理している。