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2021年の「言葉」

「被害女性が勝ち組に見えた」小田急線刺傷事件の犯人の“歪んだ女性観”にある背景とは

2021/12/30

genre : ニュース, 社会

 今夏、世間を震撼させ、模倣犯まで現れる殺人未遂事件が発生したことは記憶に新しい。

 8月6日午後8時半ごろ、走行中の小田急線の車内で、大学生の女性が突然見ず知らずの男に牛刀で胸など7カ所を刺されたうえ、他にも乗客が切りつけられるなどして、10人が重軽傷を負う事件が起こった。

 現行犯逮捕された無職の対馬悠介容疑者(36歳)は「6年ほど前から幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思うようになった」と供述しており、最初に襲撃した女性についても「勝ち組の典型に見えた」と話しているという。

 事件が発生した当時、その身勝手な動機と現場の状況の凄惨さが報じられると、ニュースサイトのコメント欄やSNS上などで激しく議論が巻き起こった。テーマは主に「この事件がフェミサイド(女性であることを理由にした殺害)であるか否か」であったが、中には「議論」と呼ぶことさえできないような、意見の異なる相手をただ言い負かしたい、中傷したいという意図しか持たない言論や、性差別にあたる暴力的な書き込みも目立った。

フェミサイドであることについては否定しようがない

 対馬容疑者自身が動機について「幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思った」と供述している以上、フェミサイドであることは否定しようがないと私は思っている。

小田急線祖師ケ谷大蔵駅から負傷者を運び出す救急隊員ら ©時事通信社

 1989年にカナダで発生した「モントリオール理工科大学虐殺事件」では、「フェミニズム反対」を掲げる男が女子学生をターゲットに28人を銃撃し、うち14人の女子学生が殺害され、14人が負傷した。

 犯人であるマルク・レピーヌ(当時25歳)は過去、モントリオール理工科大学の受験に失敗しており、その理由を「理工科系の世界に女性が進出しはじめたことで、男が座っていた椅子を女に奪われた」ためであると考えた。そして「フェミニストのせいで自分は受験に失敗し、人生を台無しにされた」と逆恨みをした結果、「フェミニストは殺害すべきである」として、虐殺事件を引き起こした。

 マルク・レピーヌが女性に対して逆恨みをしたように、そして対馬容疑者が被害女性を「勝ち組の典型に見えた」と言い表したように、女性に対して憎悪を抱く男性たちの中では「女性は優遇されている」という思い込みが強く根付いていて、「社会的成功を掴めなかった自分の現状」の原因が女性にあるように錯覚してしまう。そうして「惨めな思いをさせられた」とさらに女性憎悪を膨らませ、「女性」という性別のみを理由にターゲットを選定し、凶行に走るのだ。