消された動画
数日後、NさんはAさんから動画問題の顛末を聞かされた。
「あの動画のことお父さんに話したら、お兄ちゃんめっちゃ叱られちゃって……」
余計なことをしちゃったかな、とNさんは少し後悔したそうだが、まあ、内容的に考えてガツンと怒られてしまったのも致し方ないのかもしれない。
「でも、動画は全部消してくれたんでパソコンは軽くなりました!」
なら結果オーライか、そう思った矢先、意外な言葉が飛び出してきた。
「でも、今朝確認したらまたあったんですよ、【ぼーだー】ってファイル……」
「え、また!?」
「はい…また集め出したみたいで……」
「あー、そうなの……」
少々気まずい沈黙が流れたが……正直、自分にできることはもうない、そうNさんが伝えようとした瞬間、1階から玄関のドアを開ける音がした。
「あ!」
ドッドッドッドッ
2階に上がって来る足音はB君のようだ。Nさんはなんとなく嫌な予感がしてAさんのほうを見た。
「あの…先生、お兄ちゃんにちょっと話してみてくれませんか……?」
ほら、きた。
初対面のB君と“男同士の話”
結局、Nさんは断れぬまま、B君と“男同士の話”という謎の話し合いをすることになってしまった。
初めて会うB君は内向的な印象ではあるが、ぱっと見は普通の高校生という印象だった。Nさんはぎこちない挨拶をし、B君にそれとなく動画の件について切り出した。
なるべく、彼の気持ちを傷つけぬように、“自分も昔そういうのにハマったことがある”といった内容も織り交ぜつつ、Nさんは少しずつ距離を詰めていった。
「だからほら、そういうの集めて面倒なこと言われるのもなんだし、否定もしたくないからさ、今後は携帯に保存するとか、パソコン使いたいなら一人暮らししてからにするとかいろいろできると思うしさ!」
「……はい、あの、スミマセンでした。両親に気づかれる前に全部消すことにします……なんか、ほんとすみません」
わかってくれたのか……? 下を向いて静かに語るB君に、なんだかいたたまれない気持ちになってきたNさんは、空気を変えようと少し別の話題を出すことにした。
「ところでさ、そのファイルの【ぼーだー】って名前、あれどんな理由あるの? めっちゃ気になっちゃってさ!」