【ぼーだー】という名のファイル
その日、Aさんはパソコンの動作が重たくなった理由を調べる過程で、その原因が兄にあるのではないかと睨んだ。
「どーせ、ネットでエッチな動画見つけて大量に保存でもしているんじゃないか」
そう思ったAさんがパソコンのフォルダ内を捜索していると、勉強用のフォルダの奥深くに一つの怪しげなファイルを見つけたそうだ。
【ぼーだー】
フォルダにはそう書かれていた。
ファイルサイズもかなり大きい様子で、これは探り当てたぞ! と内心興奮したそうだが、兄のプライバシーを侵害しているという罪悪感もあり、複雑な気持ちでそのフォルダを開いてみたという。
なかにあったのは無数の“グロ動画”だった。
思わず薄目になって見た限りでは、どこか外国と思しき場所での事故動画や処刑動画など、なかなかにハードそうなものが多く、Aさんはすぐにフォルダを閉じてしまったそうだ。
その後、両親にもそのことが言えず、勉強に身が入らなくなってしまったのも、兄がそんなものを集めているというショックから、というのだ。
そして、それをNさんに確認して欲しい、とも。
いや、なんで俺が確認するんだよ! とNさんは突っ込みたくなったが、確かに年頃の女の子にとって、こうしたグロ動画を実の兄が集めていたという事実は、一人で胸に秘めておくには少々重すぎるのかもしれない……そう思い、Aさんの申し出を受け入れたそうだ。
大量のグロ動画が…
思春期の男子というものは、そういったグロ系にハマってしまうことも珍しくない。長い人生で見れば別段特異なことでもないのだがなぁと思いながら、Nさんは傍のAさんの指示に従いながら、その【ぼーだー】のフォルダを開くことに。
Aさんの言うとおり、フォルダのなかには大量のグロ動画が納められていた。
「……これは確かに結構すごいね……しかも、結構な量の動画保存してんなぁ…」
「ですよね……お兄ちゃんやっぱヤバイですよね……」
「う~ん、まず、こういうのって大半は偽物だから落ち着いて。で、パソコンが重たいのは解決しなきゃならないけど、直接お兄さんに言うのも気まずいだろうし、ひとまずご両親にそれとなく伝えるのがいいんじゃないかなぁ~」
不安そうなAさんに、Nさんは至極真っ当に回答したそうだ。Aさんも「まあ、そうですよね……」と落ち込みつつも納得してくれた。
その日は、普通に勉強を教え、いつもと同じ時間にAさん宅を出る。家に着いたNさんは今日の顛末を同棲している彼女に聞かせた。
「なんかめっちゃ大人な対応じゃん。修羅場的なことになるのかちょっとワクワクしたのに」
「いや、人様の家庭だし、俺もお金出してもらっている立場として滅多なこと言えないよ」
「まあ、そりゃそうか~。でもさ、その【ぼーだー】ってどういう意味なんかね?」
……言われてみればよくわからない。別のファイルのふりをしてごまかしているわけでもないし、どういう意味があるのだろうか。