がん予防に限らず、健康的な食生活を考える上で、「野菜」「果物」の持つ重要性は常に大きなものがあります。事実、日本人のエビデンスに基づく評価でも、野菜と果物がリスクを下げるがんとして、食道がんに対しては「ほぼ確実」、胃がんに対しても「可能性あり」という評価が下りています。そこで本稿から、がん予防の観点から検証して、ある程度の科学的根拠が示されている野菜と果物について紹介していきます。まず、ブロッコリーやキャベツなどの「アブラナ科」の野菜です。
昔から、野菜をたくさん食べる人はがんになりにくい――と見られていましたが、それを科学的に裏付ける研究はありませんでした。そこで「野菜に含まれるどの成分ががんを抑制する働きを持っているのか」という研究が、1980年代から世界中で始まりました。
様々な野菜が研究対象として取り上げられる中、ブロッコリーやキャベツに代表されるアブラナ科の野菜をたくさん食べることでがんになりにくくなるという複数の研究報告が示されるようになり、一躍注目される存在となったのです。
アブラナ科の野菜には「グルコシノレート」という成分が含まれています。このグルコシノレートはブロッコリーやキャベツに限らず、芽キャベツ、菜の花、大根、かぶ、小松菜、野沢菜などアブラナ科の野菜には共通して含まれていますが、アブラナ科以外の野菜にはあまり含まれていない、特徴的な成分です。
これらアブラナ科の野菜は、調理によって、あるいは体内で消化されていく過程でグルコシノレートが分解され、「イソチオシアネート」という物質に変化します。このイソチオシアネートこそが、がんの発生を予防する上で重要な働きを示すのです。
イソチオシアネートには、体内で発がん物質を解毒する酵素の働きを活性化する作用があり、日本で行われた症例対照研究(による調査)では、胃がんと大腸がんになった人に、このアブラナ科の野菜、特にブロッコリーの摂取量が少なかった人が多く見られた、という結果が示されました。
またWHO(世界保健機関)の研究組織(IARC)も、アブラナ科の野菜のがん予防効果について、「胃がんや肺がんのリスクをある程度下げるエビデンスがある」と評価しています。
ただし(先に紹介したIARCの発表では)、次の一文が付け加えられています。
「アブラナ科の野菜に含まれる成分にがんのリスクを下げるエビデンスはあるものの、その効果は野菜や果物をトータルに摂取することで得られる効果には及ばない」
つまり、アブラナ科の野菜にがんの発生を抑える機能を持つ成分があることは明らかではあるが、それだけに限定して、ひとつの種類の野菜ばかりを食べ続けるよりも、色々な野菜を全般的に食べたほうが、がん予防の効果は大きいのです。
これまで世界中で発表された数多くの研究結果で、何らかの野菜を食べたことでがんのリスクが高まったという報告はほとんどありません。そう考えると、がんを予防する上で、野菜はぜひ食べておく価値のある食材であることは間違いなさそうです。
いろいろな野菜を食べて、その中に効果的にアブラナ科の品目を取り入れて行くのが、理想的な食べ方と言えるでしょう。