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 こうした数々の報告から、グレーバーは、このようにいうのです。

 一般的に、そこにはある程度の欺瞞と詭弁もまたかかわっていなければならないのだ。その仕事に就く人間は、内心ばかばかしいとおもっていても、その仕事の存在するたしかな理由があるかのようにとりつくろわねばならない。とりつくろいと現実とのあいだに、ある種のギャップがなくてはならないのである(BSJ 25)

 ここではpretenseという表現が、名詞と動詞(pretend)であらわれています。BSJ論において、このpretenseあるいはpretendという言葉は頻出しますし、とても重要な意味をもっています。この翻訳の一文からもわかるように、わたしたちは必ずしもつねにこの語におなじ日本語を対応させているわけではありませんが。

 これも『ランダムハウス英和大辞典』によれば、名詞では、「1見せかけ、仮面、虚偽、装い、振り;偽、いんちき、ごまかし、2まねごと、作りごと、3虚偽の申し立て[弁明]、言い訳、言い抜け、口実、4不当な要求[主張](をすること);(一般に)申し立て、主張、要求、5見せびらかし、見え」といった意味が並びます。それが動詞になると、「(他人をだますために)見せかける、振りをする、〈病気などを〉本当らしく思わせ(ようとす)る、装う、取り繕う、見せかける、偽る、〈子供が〉まねごと遊びをする、(資格なしに)(権利・肩書きがあると)主張[要求]する」といったふうになります。

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 ここから、pretenseが、基本的に「欺瞞する」というニュアンスの強い言葉ということがわかります。そして、そこに、ある種の演技性のあることもわかります。

 こうして、グレーバーは先ほどあげた最初の定義にこうつけくわえます。

 暫定的定義その2:BSJとは、被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でさえある雇用の形態であるが、たとえそうであっても、当人は、そうではないととりつくろわなければならないように感じている。[強調引用者](BSJ 25)

空気を読み合う「仕事ごっこ」

 マフィアややくざのなりわいとBSJとが「あざむき」というレベルでちがうことはわかりました。それでは、ペテン師や詐欺師、山師、イカサマ師、あるいは強盗、ゆすり屋、盗賊などはどうでしょう?

 たしかにかれらは「あざむき」を不可欠にしている、あるいは「あざむき」で食っている人たちです。でもそれも、BSJといわれるとなにか違和感がありますよね? 

 やくざとちがい、かれらはみずからを「やくざ」と公言することはありません。しかし、やくざあるいはマフィアはそもそも仕事か、という話をしましたが、ここでいう「ジョブ」とは「他人のために働くことによって、賃金であれ俸給であれ、その支払いのともなう(大半が給与の経理業務をともなう)雇用のこと」です。とすると、やはり、詐欺師や強盗はちがうといわざるをえません。