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「師匠は前でぼそぼそしゃべって何やってんだよって思ってんだけど…」 繊細、人たらし…“立川談志と菊池寛”の意外な“共通点”

「師匠は前でぼそぼそしゃべって何やってんだよって思ってんだけど…」 繊細、人たらし…“立川談志と菊池寛”の意外な“共通点”

浅田次郎×春風亭小朝 #1

source : オール讀物

genre : エンタメ, 芸能, 読書, 歴史

note

浅田 繊細だけじゃなくて、“負の論理”がありますよね。松本清張は菊池寛の小説をよく読んでいたんじゃないでしょうか。清張さんの“悪の論理”って、犯罪者の事情を好んで書くのがおもしろい。菊池寛も、できれば見舞いって行きたくないって、はっきり書いちゃう。実は、みんなそうなんだ(笑)。心の中で思っているけど、けっして言わなくて。

小朝 小説に書くことで、自分が救われているんじゃないですか。

浅田 それが本音ですよね。義理堅かったんじゃないかな。ほんとは嫌々やってたと思うけど。

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小朝 嫌々やってたんだろうし、いろいろと思っていたんでしょうね。お見舞いに行って、ベッドの上の友人は笑っているけど、そんなに喜んでないぞって。

浅田 学生時代の親友なら迷わず行くけど、会社の中にはいろんな人間関係があるから、できれば行きたくないとか、わかるんですよ。そういう気持ちは。

小朝 わかりますね。

東京人が嫌うもの「結婚式と葬式とお見舞い」

浅田 師匠は東京人だから、おわかりですよね。めんどくさい(笑)。東京の人間は、めんどくさいのが嫌いなの。その最たるものが、結婚式と葬式とお見舞いで。

小朝 こういうシチュエーションを書いた小説って、他にありますか?

浅田 ないことはないと思うけど、菊池寛の場合、上手なのは、どこまでが自分の経験談で、どこまでが作った話で、どこまでが借り物か、その借り物も、どこから取ってきたのか。民話なのか、外国の小説なのか、誰かから聞いた話なのか……。そういう組み方がバラエティに富んでますよね。アンテナを張り巡らせていたと思うし、頭も柔軟でした。

小朝 妻の直感の話も怖いです。菊池さんの小説は「妻は皆知れり」。

浅田 女房って、超能力者だから。

小朝 脳科学の先生が教えてくれたんですけど、右脳と左脳を、女性はいっぺんに使えるんですって。想像と分析を一瞬のうちにするんだから、鬼に金棒ですよ。しかも匂いに敏感で。

春風亭小朝師匠 写真=原田達夫

浅田 必ずバレる(笑)。

小朝 「時の氏神」も夫婦の物語で、吉本新喜劇みたいな話でした。あれは落語にしやすかったですね。ありがたいのはサゲ(オチ)がない。菊池さんの小説って、わくわくするじゃないですか。で、いっぱい考えるんですよ。サゲどうするんだって……。小説はサゲがなくて終わるのがほとんどで、こっちにするとラッキーです。サゲがついていると、それを尊重しなければならないけれど、サゲがないので、こちらでつけられます。