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「師匠は前でぼそぼそしゃべって何やってんだよって思ってんだけど…」 繊細、人たらし…“立川談志と菊池寛”の意外な“共通点”

「師匠は前でぼそぼそしゃべって何やってんだよって思ってんだけど…」 繊細、人たらし…“立川談志と菊池寛”の意外な“共通点”

浅田次郎×春風亭小朝 #1

source : オール讀物

genre : エンタメ, 芸能, 読書, 歴史

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小朝 そんなになっちゃったの、みたいな感じです。談志師匠はたいへんな人たらしでした。魔法使いですから。

浅田 今でもおぼえているのは、東横の落語会を聞きに行ってさ、席がざわざわしていたら、声が小さくて聞こえない。わざとやってたのかな。

小朝 わざとですよ。

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浅田 前でぼそぼそしゃべってんだけど、静まるのを待ってるんだね。こっちは何やってんだよって思ってんだけど、おもしろい芸だって、あとから気がついて。

小朝 何度もありましたよ。聞こえねえぞっていうヤジが。

浅田 いつもやってたんですか?

小朝 いつもです。聞こえねえぞ、となって、ひとりくらいは我慢してるんだけど、もうひとり、聞こえねえぞ、となってくると、じゃあ、1回幕閉めるから、嫌なら帰れって。

浅田 えー(笑)。

小朝 で、幕閉めて。

浅田 ほんとに閉めちゃった。

小朝 聞こえねえぞって言った人は帰りますよね。何人かはパラッと立つんですけど、それで開けさせて、残った人のために大熱演ですよ。そういうときの高座はいいんです。

浅田 ニ度と来ねえぞって人も、いるだろうな。

小朝 菊池さんじゃないけど、談志師匠も繊細で、とんでもない人たらしだけど、ちょっとしたことに傷つきます。傷つかないふりをしてるけど。

浅田 でしょうね。

故・立川談志師匠

小朝 何に傷ついたのかを、いつまでも覚えています。逆に、なんでうれしかったのかも記憶してるから、そのときの相手の心理も読める。で、みんな、参っちゃいます。

浅田 菊池寛の小説で言うなら、人間を書くということに卓越しているんだろうね。作家はみんなそうでなければならないんだろうけど、菊池寛はとくに生々しい人間を書いています。横光利一とか、すごく影響を受けていると思うな。人間観察眼が似ています。

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菊池寛が落語になる日

春風亭 小朝

文藝春秋

2022年1月11日 発売

「師匠は前でぼそぼそしゃべって何やってんだよって思ってんだけど…」 繊細、人たらし…“立川談志と菊池寛”の意外な“共通点”

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