文春オンライン
「師匠は前でぼそぼそしゃべって何やってんだよって思ってんだけど…」 繊細、人たらし…“立川談志と菊池寛”の意外な“共通点”

「師匠は前でぼそぼそしゃべって何やってんだよって思ってんだけど…」 繊細、人たらし…“立川談志と菊池寛”の意外な“共通点”

浅田次郎×春風亭小朝 #1

source : オール讀物

genre : エンタメ, 芸能, 読書, 歴史

note

浅田 「好色成道」も寄り道なしですね。ストレートに話が進行します。

小朝 エッチしたいばかりにがんばって修行するんだけど、女性のハードルが上がっていくっていう、それだけのことですけど(笑)。男の馬鹿馬鹿しさですよね。女性の誘惑に負けて。お坊さんが滑稽であるというのは、笑いとしては作りやすい。最初が硬派なので、パッと軟派にすると、おもしろくなります。

浅田 主人公が化かされずに、自分で気がつきます。あれが仏様だと言い切らないのが、小説家の上手なところですね。お坊さんがあとで勝手に言っているってところに現実味があって。

ADVERTISEMENT

小朝 親近感というか、“こういうことあるよね”っていう感覚があります。落語には意外と少ないんです。

傷つかないふりをしてるけど

小朝 「入れ札」は、僕が落語にした一作目で、一瞬にしてパッとアイディアが浮かびました。

浅田 国定忠次が逃げているとき、誰を連れていくのかを入れ札で決めるっていうのは、オリジナルな発想だと思います。だって、選挙でしょ。民主主義が前提だから、江戸時代にはありえない。指名か話し合いになります。菊池寛は選挙に出馬した経験もありますから。

小朝 あれは浅田先生の「天切り松 闇がたり」シリーズがベースにあるんです。あの語り口というか、読んだときの記憶が、どこかに残っていたんでしょうね。こういうふうに作っていったらどうだろうって、一瞬にしてよみがえりました。ここでウッドベースを鳴らして明転しよう、ここでカットバックしてサスペンスタッチにしようって、同時にイメージがわいて。

浅田 ありがたいですね。

小朝 ピンスポットの世界で、いろんなイメージがふくらんでいく。菊池さんの「入れ札」は、芯の部分で共感できます。たくさん弟子がいる場合、みんな平等なのかっていうと、そうはいかない。序列もある。逆の立場で自分が弟子になったら、師匠から見て何番目なのかなって思いますし。

浅田 小朝さんの「入れ札」は(立川)談志さんの話から入っています。談志さんも亡くなって、何年になるだろう。

小朝 十年ですか。最近の若手は、談志師匠の高座を聞いてないんですよ。(古今亭)志ん朝師匠も聞いていない。

浅田 生で聞いてないんですか。

小朝 談志師匠が亡くなる1年ぐらい前に楽屋に行ったら、前座さんが「あの人誰ですか?」って言ったっていう話があるぐらいで。

浅田 えー!