落語界の第一人者である春風亭小朝さんが、「菊池寛×落語」の試みの集大成として『菊池寛が落語になる日』(文藝春秋)を上梓しました。文藝春秋の創業者である菊池寛について、小朝師匠のファンである作家の浅田次郎さんと語りつくしました。(全2回の2回目。前編を読む)

春風亭小朝師匠(左)と浅田次郎さん(右) 写真=原田達夫

短編小説の流儀とは

小朝 菊池さんは短編小説を、はやいと2日ぐらいで書いたらしいですけど、そんなに書けるものですか?

浅田 短編は、一気呵成に書いたほうがいいですね。僕は同じ流儀ですから、30枚から50枚ぐらいのものなら、だいたい2日か3日で書きます。緩むのが怖いんですよ。テンションが落ちちゃうのが。

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小朝 書いてる途中で、違う発想が生まれたり、話がふくらんで別にいっちゃうことはないですか。

浅田 人によって違いますよ。菊池寛は、完全に設計図を引くタイプではないと思います。僕はきっちりと考えてから書くタイプで、字にはけっして書かないけど、頭の中では最初から最後まで、少なくとも最初の1枚か2枚は文章まで完全にできてないと書き出さない。時間をかけちゃダメだと思うんです。やっぱり短編は、途中で息を入れちゃうとうまくいかない。

 短編小説と長編小説って、百メートル走かマラソンかっていう話です。体型や骨格にも向いてる向いてないっていうのがあるように、どちらかなんですね。菊池寛は、筋肉が短編型だと思います。そういうタイプの書き手は、2、3日で書き切っちゃう。途中で息を入れると、そこでおさまっちゃうから。

小朝 書いていて、何か違うことに集中しなきゃいけなかったら、もうアウトってことですよね。

浅田 僕は書いているとき、返事もしません。メシ食えって言われても食わないし、トイレぐらいは行くけど。

小朝 一気にゴールで。

浅田 一気にいかなきゃ。高座だって途中でトイレはないでしょう(笑)。完全に壊れちゃうじゃないですか。それと同じですよね。