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“極道の妻”は「ピンクなんか絶対着ない」

 映画でしか知らない極道の妻という方々は、実際お会いするとまさしく映画のままで感動しました。着物をピシッとキメて品があり、背筋がピンとしていました。なんとも華のある美人で似合う色は絶対、金、銀、黒、白! ピンクなんか絶対着ない。そんなふうに見えました。存在感の強さとはどうやって生まれるのでしょう。背負ってきた人生や覚悟で彩られるのでしょうか?

 本来は親分さんが来るところ、「彼は今お勤め中なので私が来ました」と席に呼んでくれました。そのときのお客さんは、この姐さんと5人くらいだったと思います。姐さんは「お客も少ないのによくやってくれました」と席に着くと、さっと5万円をチップとして私に差し出しました。強い中にどこか現実をビシッと捉える視線にいろいろなものが見えました。それが何かははっきりとはわからないけれど、おおらかで優しく見えました。

 ヤクザ屋さんはこういうタイプの姐さんが好きなのか、私は絶対に極道のお嫁さんにはなれないわ。覚悟も色気もまったく足りていない。

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キャバレーミナミのステージにて

新年会で料亭へ「怖そうな黒スーツが100人ズラ~っと」

 あるお正月、大阪の十三で昼間から始まる新年会に呼ばれました。大概は芸能社からお客さんの情報が入りますが、今回は知らされず早めに現場の料亭に到着しました。芸能社より早く着いた私は、ショーをする和室の横の楽屋へ通されました。和室の障子の下がガラスになっていて中が見えます。黒っぽいスーツの怖そうな人たちが100人ほどズラ~っと座っていました。その筋の方々の専門用語が出てきます。声のトーンもまさしくヤクザ映画。おやまあ。大迫力!

 後から胡散臭い芸能社の社長が、所属タレントを連れてやって来ました。歌手と手品と妙なエアロビのようなショーを交えたパッケージショーと、私のショーがこの日の演目。社長自らがMC役で、派手なスパンコールのタキシードにおどけた大きな蝶ネクタイをしています。舞台では愛想笑いに揉み手。楽屋では「お正月早々テンヤもんかい。最近のコッチ系はほんま、ドケチやでぇ」と愚痴りながら、出された丼物をすべて平らげていました。

 会合が終わると若い衆が廊下にズラっと並びます。廊下に出るたびに私に「姐さん」と頭を下げるのです。なんだか不思議な気分でした。同い年くらいの若い衆。

「なぜ君らはその道へ?」

「そちらはなぜヌードダンサーに?」

 お互いアウトサイダーの卵同士。少年の面影が残る君たちもゆくゆくはいかついヤクザになっていくのだろうか。きっと私も貫禄ある踊り子さんになってゆくのね。

 キャバレーには様々なお客さんがいます。いわゆるヤクザ屋さんやその関係者の前でも数多く踊ってきましたが、一度も怖い思いをしたことはなく、毎回温かくショーを迎えてくださるお行儀の良い方々でした。お行儀が悪いのは、大抵酔っ払って羽目を外す一般の人たちのほうでした。

(#2へ続く)

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。