「たぶんストリップ劇場の踊り子さんについて書かれた本や映画はわりとあると思うの。でもキャバレーの踊り子さん(ヌードさん)の記録はほとんど残っていないので、キャバレーの古き良き時代をギリギリ体験できたヌードさんの私が記憶のある限り残していこうと思います!」(『エロチカ・バンブーのチョットだけよ』「まえがき」より)
1960年代から1970年代に流行したキャバレーでは、きらびやかな店内に豪華なビッグバンドの演奏、それに合わせて踊る踊り子たち目当てに多くの客が詰め掛けた。そんなキャバレーの世界から踊り子としてデビューし、2003年にラスベガスで開催された大会で全米1位となったエロチカ・バンブーこと野口千佳氏の初の自伝『エロチカ・バンブーのチョットだけよ』(東京キララ社)が発売された。奥手だった美大生がいかにして世界を股にかけるダンサーになったのか。波乱万丈の半生を綴った本書から一部を抜粋して紹介する。
恋愛に奥手だった著者だが、アメリカに進出したことをきっかけに自意識から解放され恋愛の自由を謳歌するようになる。しかし、恋愛に不慣れなせいかせっかく良い関係になった男性から「真っ直ぐ過ぎて、君は怖い」と言われてしまう始末。そんな折、知り合いの紹介でイギリス人シェフのアルタスと出会う。運命の人と出会った著者だが、想定外の出来事が起きて――。(全5回の5回目。#1から読む)
(転載にあたり一部編集しています。年齢・肩書等は取材当時のまま)
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お腹に宿った「リトル・バンブー」
エキゾチック・ワールドから帰ると、再び日本へ一人帰国。東京でのイベント出演で忙しくなりそう。そんなとき、風邪を引いてしまいました。ところがいつもとは違い、吐き気がしてお酒が美味しくないのです。そのうえ胸も張ってきました。これはもしかして!? 妊娠テストをしてみるとビンゴ。見事に小さな命が宿っていました。
人生は予測しないことが起こるもの。今まで一度も妊娠した経験がないのに「私はこの寂しいアルタスのために家族を作る」と心で強く宣言をした途端、子供を授かりました。病院でその写真を見せてもらうと、突然止めどなく涙が溢れ出し、生命に感動し過ぎるあまり、看護士さんたちが「どうしたの?」と心配して次々とやって来ました。結婚はおろか、子供を産むことなど想像もしていなかったのに!
まだ何ミリかの小さな魚のような生命が私の中に入ってきたのです。まだ手や足も生えてないくせに、まだミリ単位のくせに自己主張は立派。ムカつきと吐き気で、その力強い存在を私に知らせてくれるリトル・バンブー。小さな新しい生命を私の中に感じると、なぜかすごく力がみなぎってきました。