翌日、ツーソンを後にすると、ラスベガスへ向けスカーレットと長いドライブへ。西部劇でよく見る乾いたサボテン山を越えると、急に空気が冷たくなり緑の深い道路を直進して行きました。いつの間にか英語も徐々に聞き取れるようになっていました。スカーレットは私よりも10歳以上年上なのに、まるで長年の友人のように私と向き合ってくれる。私の『ヌードさん日記』をとても気に入ってくれて、それを見て以来ことあるごとに「チカ、これはどう思う?」といろいろな場面で私に意見を聞いてきました。「チカはアーティストだから意見が聞きたい」と。アーティストのつもりは更々ないのですが、彼女にとっては私はアーティストでありました。
真っ赤な髪に星条旗の衣装…愛すべきスカーレット
普段はおっとりの彼女もステージに上がるとパワフルなパフォーマーです。大きい体に真っ赤な髪、ハート型のピンクのメガネ。星条旗の衣装を纏って歌うのです。時にギターも奏でる姿は天晴れでした。セックスワーカーという言葉を産んだのは実は彼女です。
やがて背の高い緑の木々の間から突然現れたのは真っ赤な岩山。この赤い山肌の出現と共に空気もガラッと変わりました。
「チカ、ちょっとセドナに寄っていこう」
スカーレットはヘイトアシュベリーの筋金入りの元ヒッピーでもあり、せっかくだからこのスピリチュアルで有名な赤い岩山でランチをとることにしました。いとこから「一度は訪れるべきだよ」と言われてたセドナ。澄み渡る青空と空気の清らかさに私たちは、昨日までのクレイジネスから解放されてゆきました。
何時間ドライブしたのか見当もつきませんが、いつの間にか周りは漆黒の闇に覆われ、私たちはベガスを目指しました。神聖なる赤い岩山の次は、宝石箱をひっくり返したような眩い光の粒が黒い平原一面に現れました。ラスベガスです。
この頃、州の境界線は警察が封鎖していて一台一台車をチェックしていました。この国でつい2ヶ月前にテロがあったばかりだということを忘れていました。スカーレットは私の英和辞書をダッシュボードに置きました。「チカは留学生。私はあなたのホストファミリーということにしましょう」と言いながら、彼女はマリファナのパケをミラーの裏に隠しました。少し緊張しながらも笑顔で通り抜け、ネバダ州に入ることができました。このときはまさか自分がベガスでショーをするなんて、そのうえこの街で結婚するなんて思ってもいませんでした。
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