闇と隣り合わせの居場所、それぞれの「トー横」
「トー横」にくるまで、ミカは渋谷で徘徊していた。援デリ業者に出会ったのはトー横だった。母親が彼氏と過ごしていることや虐待、学校での性暴力などで居場所を失ったために、歌舞伎町へきたとき、業者と知り合ったという。時には監禁されることもあり、一度は警察にSOSを出したことがある。
「何人かの女の子たちがグループになっているんです。中学生もいます。ハメ撮り動画を撮られたりします。それがネットにも上がっています。抜けようにも、他の子たちに危害が加わるようなことを言われたりするので、なかなか抜けられないんです。それに動画で利益が出ても、多額の報酬が入るわけではないんです。逃げようとしても帰る場所がないんです」(ミカ)
帰る場所がないといっても、歌舞伎町周辺だけでなく、都内の別の場所や、北海道や名古屋、大阪でも仕事を与えられるため、移動することも多い。最初は警察も心配していたが、なぜかトー横の言葉を出したときから、態度が一変して話を聞いてくれなくなった。現在は、学校にも行けない状況になり、高校を中退してしまった。
「もう限界だと思ったので、みんなで自殺をしようと思ったことがありました。約束の日、何人かは実行しようとしていたんです。しかし、一命を取り留めました」(同前)
「トー横」は若者たちの遊び場だったが、悩める若者たちの居場所になっている。トー横に来る前から、生きづらさを抱え、自傷行為をしている人もいる。トー横に来てから「闇」に触れて、援デリに囲われていく少女たちもいる。一方で、悩みを聞いてもらえる仲間ができて、居場所として安心できる人もいる。どんな場所と問われても一言では言えない。
話を聞いた人の数だけ、その人にとっての「トー横」が存在する。誰の目を通すかで、トー横の「風景」も変わっていく。最後にこんな女子高生もいた。
「きょうは友達に誘われて来ただけです。友人は楽しんでいるけれど、私は楽しくないので、誰とも話していない。だって、ホストが声をかけてきて、ちょっと嫌だなと思って……。もう来ないと思う」
冒頭の2人が亡くなった場所には花束が置かれていない、との報道もあった。しかし、私が数日後に現場を訪れると、そっと地面に花束が供えられていた。
写真=渋井哲也