『ボキャブラ』で一躍スターとなった芸人たちの多くが、その後テレビから姿を消した。筋肉、改名、タレント・山川恵里佳との結婚、そして書道、多種多様なフックで芸能界を生き抜いてきたおさる。M-1、キングオブコント、R-1、The W……賞レースが芸人の生き方にも大きな影響をもたらす昨今の芸人界を、サバイバーおさるはどのように見つめているのだろうか。
ライフ・イズ・ビューティフル。自身の「無限の可能性」を信じて疑わなかった一人の芸人の、人生賛歌を訊く。 (#1〜#3の#3/#1から読む)
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――以前若手芸人の方が「テレビに出て手応えを感じても次に呼ばれるとは限らないし、手応えがなくても呼ばれることもあるし、何を信じるべきなのか」という話をされていて。
おさる ディレクターさんは常に「よかったですよ」って言うしね。この人たち、みんな詐欺師なんじゃないかと思うぐらい(笑)。だからね……手応えないぐらいでいいんですよね。手応えないな、大丈夫かなって思うからひとつ何か準備する。怖いから1個考えておく。それでいいんだと思いますよ。
――慢心しない。
おさる そう。昔、所(ジョージ)さんと絡ませてもらった時、もうちょっといけたなっていう反省があって「所さん、もうちょっとやった方がよかったですよね」って言ったら「いや、あれぐらいでいいよ」って言われたの。「手前でいい」って。「よく止めたね」って。
――なんか所さんっぽい。
おさる 僕らはその意味がわからなかった。でも今思うと、それぐらいで観てる人にはちょうどお腹いっぱいってことなんですよね。演者がやりすぎると観てる人にはお腹いっぱいすぎて、来週いらないよってなる。来週分は残しておかないとっていう意味だったんだと思う。
――難しいですね。視聴者との温度差があるから。
おさる そう。爪痕残さないととか、僕らも言ってましたけど。爪痕なんか残したらだめだって今は言われる。「爪痕なんか残したらもう直せない」って。「それは傷だよ」って。
――たしかに爪痕って傷だ……。
おさる 「ワーッとやって、すーっと引いて、何も残さずに帰らないと」って所さんは言っていた。深いですよね。事務所にそういう風に言ってくれる人がいたらな(笑)。
「波来たら乗ったらいいじゃん」妻・山川恵里佳の金言
――おさるさんが改名された時、それを「売名」みたいに捉える人もいました。でもこうしてお話を伺うとなんてコスパの悪い売名なんだろうと。
おさる そうですね、コスパはよくないですね(笑)。だからちょっとアウトローなんだと思います、僕。やっぱり変わってると言われますよ、かみさんにも。
――アウトローですか。
おさる 僕はすぐ考えちゃうんです。なんでも不安な方に不安な方に。それがかみさんには変わっている風に映るらしい。かみさんは「波来たら乗ったらいいじゃん」って。「乗ってみてよくない波だったら、波待ちして、いい波まで待てばいいじゃん」って。芸能界をサーファーみたいに言う。
――かっこいい(笑)。
おさる だから“師匠”と呼んでます。