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「男女2人組」の自殺報道

 会話がまったく続かない。あまり人には話したくない事情があるのだろう。中年もベンチに座ってずっと下を向いている。目の前では近所の人たちが元気にラジオ体操をしているが、どんよりとした朝だった。

 それから約3週間後の9月16日、上野公園でこんな事件があった。産経新聞の報道を引用する。

 16日午前6時45分ごろ、東京都台東区上野公園の上野恩賜公園公衆トイレ内で、「男性2人が首をつっている」と男性警備員から110番通報があった。駆け付けた警視庁上野署員が、男性用個室内で60代と30代くらいの男性2人の遺体を発見した。自殺とみられ、上野署は2人の身元の確認を進めている。

 

 同署によると、男性2人は扉の金具部分にロープを巻き、ドアに背を向けて横並びの状態だった。遺体に外傷はなく、鍵は閉まっていた。30代男性の財布内に遺書のようなメモが残されていたという。午前2時ごろに警備員が巡回した際には、異常がなかったという。

 死んだ2人の情報からするに、自殺した男性2人組はもしかするとあの「仮親子」ではないか。先を案じ、それならもう2人で死んでしまおうといつも暮らしていた上野公園で命を絶ったのではないか。そのとき私は、上野公園を離れ荒川の河川敷に暮らしていたが、「仮親子」を探しに上野公園に戻った。

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 ホームレスの世界というのはとても狭い。都の調査によれば、2021年11月時点での東京都の路上生活者数は800人。こちらも実態を表しているかというと疑問だが、マンモス高校1つ分くらいの規模感である。2カ月路上で暮らし、炊き出しを回って生活していると顔ぶれも覚えてくる。

上野公園内で生活するホームレスの住まい

 あのホームレスは本当にいつも炊き出しにいるな。あのホームレスいなくなったけどどうしたのだろう。あのホームレスは最近生活保護に流れたらしい。といった感じでお互いがお互いを認識している。私も、「あの若い奴最近路上に来たんだな」と思われているはずだ。

 果たして、「仮親子」は見つからなかった。ならば、上野公園にいるホームレスに聞いてみればすぐに分かることである。奏楽堂前のベンチに座っていたホームレスに声を掛けると、「あの事件ね」とすぐに教えてくれた。自殺があったのは公園内にあるコーヒーショップの裏のトイレだったという。

「私、自殺が発覚する1時間前にそのトイレ使ったんだよね。騒がしくなってきたからなんだろうなと思ったら自殺だった。自殺があったのは男子トイレの個室。朝、多目的トイレのカギを開けに来た警備員が全部のトイレを点検するんだけど、そこでふたりの死体を発見したんだって」