ニュースでは男性2人組と報道されていたが警備員は初め、「男女2人組」と通報した。
「1人は60代の男性、もうひとりは30代の男性なんだけど女装をしていたわけ。だからはじめ警備員は、“男女がトイレで心中した”と思い込んで、警察に通報したんだけど、あとあと調べたら両方男だと分かったみたい」
女装した男性の首は発見時、傷だらけになっており、はじめは他殺の線も浮かんでいた。しかし現場検証を進めるにつれ、本人の爪の跡だということが分かり自殺と断定された。あの青年が女装をしていたという線も捨てきれないが、ほかのホームレスに青年のことを聞くとすぐに別人だと分かった。
正岡子規記念球場前で酒を飲んでいたホームレスが話す。
「あの兄ちゃんはな、俺たちで面倒見ていたからな、奈良の実家に帰らせたんだよ。こんなところにずっといてもしょうがないからな。みんなで可愛がってたんだ」
一緒に暮らしていた中年も変わりなく公園で暮らしているという。完全な私の思い過ごしであった。
私たちにはどうも、ホームレスたちのことを悲劇的に、そしてドラマチックに見てしまう部分がある。ホームレスとの何気ない交流や彼らの過去は、小説のような人間ドラマ風に美化され「エモい話」として他人に伝わっていく。
たしかに「エモい話」もあるにはあるのだが、ホームレスも「エモい風」に誇張して話している感すらある。やはり誰でも物語の主人公になるのは気持ちがいいのだ。
となりで炊き出しの文句を言っていたようなホームレスが小綺麗な服を着た女性に話しかけられると、たちまち「エモさMAX」の昔話を披露し始めたりする。
その様子を見て私は、「お前そんなんじゃないだろう」と心の中で突っ込み、「彼らが路上でこれだけ頑張っているのだから私も頑張らなくちゃ」といった顔で「またお会いできたら嬉しいです」などと言いながら駅に向かって歩いていく女性を眺め、となりのホームレスとまた元の話題に戻るのである。
年金ホームレスは生活保護を受けない
「世間の人たちはホームレスのことを悲惨だと捉えているでしょう。もちろんそういう人もいるんですよ。だけども、今となってはそういう人のほうが少ない。昔はそういう人ばかりだったけど、辛い人は生活保護に行けるようになった(2008年の年越し派遣村を機に)んだから。今でもホームレスやっている人っていうのは、僕らみたいに年金をもらっている人が多いんですよ」