1ページ目から読む
5/5ページ目

住所がなくても年金給付は受けられる

「ホームレスという呼び方もそのうち変わるんじゃないかな。昔は“ホモ”と言ったけど、今は“LGBT”と呼ぶでしょう。たぶんそういう方向にいくと思うんだよね」

 私もコヒのこの視点がとても腑に落ちる。

 年金の話をホームレスに聞くたびに疑問に思っていたことがあるが、ホームレスは何の問題もなく年金を受け取ることができるのだろうか? 寅さんが言うように、ホームレスの状態が長くなると住民票は「職権消除」されてしまう。

ADVERTISEMENT

 コヒに聞くと、「住所がないと年金はもらえないよ」と話していた。住民票が削除されるたびに、どこかの施設に入所してそこに住所を置き、またホームレスになるという繰り返しをしたり、お金を払ってどこかに住所を置くのだという。

 

 しかし、社会問題に詳しい弁護士の大城聡氏は、

「住民票がないからといって、年金を受け取る権利が消滅するわけではない。支払いが止まったとしても、あくまでどこに行ったかが分からないので支払いをストップするということだと予想されます」と話す。

 「住所がないと年金はもらえない」という情報はホームレスの間でまことしやかに広まった噂ではないのか。年金事務所に問い合わせた。以下は電話で聞いた内容である。

 まず、年金受給開始の手続きをする際には、住所の登録が必要になる。振込の案内などの書類を定期的に送る必要があるためだ。

 では、年金受給中にホームレスになり、住所を「職権消除」された場合はどうなるか。現状、受給者の住所は住民票の住所と連動することがルールになっている。そのため、住民票が「職権消除」されれば、その事実は年金事務所に伝わり、生存の確認が取れていないという理由から年金の支払いは停止される。

 ただ、毎年誕生日に「現況届け」を近くの年金事務所に提出すれば、生存の確認が取れたということで、住民票の住所がない状態でも引き続き年金を受給することができる。

 このように年金事務所に問い合わせをすれば、「現況届け」の存在を知り提出することができるが、コヒなどはそれを知らず、定期的に(おそらく誕生日付近に)どこかしらに住所を置き、更新をしているのだ。

写真=國友公司

取材監修:東京千代田法律事務所・大城聡弁護士

【前編を読む】「東京五輪のセレモニーをやるから2日間だけどいてくれ」路上生活で体験した“ホームレス排除”のリアル《行政からの無言の圧力も》

ルポ路上生活

國友 公司

KADOKAWA

2021年12月27日 発売

 

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。