「推し」は、基本的に綺麗な部分しか見ない
佐々木 ただ、「推し」って恋愛と違って、相手とちゃんと向き合っていないんです。つまり断片的なところだけを見て、その人を推す。恋愛で断片的なところだけしか見ないってありえないじゃないですか。その人の嫌な部分も見て、だけど好きな部分もあるから許せる。「推し」は、基本的に綺麗な部分しか見ないので、ちょっと嫌なところがあると「推し降りるわ」と簡単に言うんです。恋人関係で「降りる」って言わないですよね。ある種相手とちゃんと向き合ってないからこそ言えることです。
ひと昔前は、「推し」の対象が、雲の上の存在だった。だけど最近は、「推し」が自分の日常の延長上にいるようになったんです。
ホストクラブとかコンカフェ(コンセプトカフェの略。特定のテーマを取り入れて全面に押し出すことで、他のカフェとの差別化が図られたカフェのこと)はその代表です。会いに行って一緒にお酒を飲んだり、LINEをすることができる。前までは見えなかった裏の部分や人間的な面も見えるようになったんです。
それってホストクラブやコンカフェにとってすごく大変なことで。例えばジャニーズって、ライブやテレビなどのステージの上だけアイドルでいればいいじゃないですか。ホストは常に見られているので、それができないんです。ステージであるお店でも頑張らなければいけないし、ステージ以外でも、お客さんが自分の推しを降りないように、こまめにLINEするとか、お店以外で会うとか、そういう事もしなければいけない。ホストとかコンカフェは、推しカルチャーと互いに影響し合っているんです。
推しカルチャーがあるからこそ、成り立つコンカフェ
――本書でも、コンカフェが「推し」文化に与えた功罪について書かれていましたよね。
佐々木 コンカフェは、推しカルチャーがあるからこそ、成り立つものですね。普通のカフェで500円くらいで出されている飲み物が、コンカフェでは何千円もする。それは先ほども言ったように「推し」同士が競い合ってお金をつぎ込んでいくことを店側が知っているから。
私が高校生の時に、メイド喫茶の面接に行ったら、「ここは風俗産業です」って言われたことがあるんです。本当の風俗ではないですけど、「ある種風俗です。ただのジュースに1000円2000円払わないでしょ。君に会いに来ていたりとか、君をそういう目で見てたりするから成り立つんだ」みたいなことを言われたことがあって。
私は、女性性と男性性を切り売りする仕事を、10代の子が接客業だからといってやってるのはどうなんだろうと思いました。コンカフェって一応カフェなので、高校生から働ける。高校生も来れる。だけど価格は青天井。なぜなら推しカルチャーの上に成り立っているから。となった時に、ほぼキャバクラ化してるんですよね。入口はすごく広いけど、入ってみるとキャバクラなんです。