「自分ではどうにもならない状況をもちこたえる」ということ
――『しあわせは食べて寝て待て』は、バリバリのキャリアウーマンとして働いていた主人公の麦巻さとこさんが、膠原病を患い、デザイン会社で週4の事務パートとして働くところからストーリーが始まります。
1巻の第9話で、そんな麦巻さんに、取引先で出版社の編集者・青葉さんが「ネガティブ・ケイパビリティ」について説明する場面があります。「自分ではどうにもならない状況をもちこたえる」というのは実は非常に高い能力を要するのではないかと思いますが、この言葉は水凪さんが闘病中にどなたかに言われた言葉ですか?
水凪 さとこさんは病気になるまではものすごく頑張り屋で、病気になって頑張れなくなった自分にすごく気後れしていたと思います。新聞で、作家の帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)さんのコラムにこの言葉が出てきたので興味を持ち、「ネガティブ・ケイパビリティ」の本も読んでみたら「これは、さとこさんのことだ」と思って使わせていただきました。
できない自分を認めるって、勇気が要りますよね。私は原因も分からずに具合の悪い時期が長くて、しかも少しずつ悪くなっていったので、「できない自分を悔しく思う」という気持ちよりも「つらかった」みたいな諦めの気持ちのほうが大きかったのですが、さとこさんと同じような状況で悩んでいた方から前向きなご感想をたくさんいただき、少しは誰かのお役に立てた気がしています。
今は「だんだん前向きに考える時間が増えていく」時期
――主人公の麦巻さんも水凪さんも、かつてバリキャリだった自分を手放して今の自分を楽しめるようになるまでに、どのような葛藤やプロセスがあったのでしょうか。
水凪 私もさとこさんも、まだそんなに自分を楽しめるようにはなってはいなくて、その途中でしょうか。 普通に生活はしていますが、病気のことで落ち込むことも多く、けれども出来ないなりに頑張ろうと思う時もあって、それが交互に訪れる。そして、だんだん前向きに考える時間が増えていっているという時期です。治らない病気はそうやって、時間をかけて受け入れてゆくのだろうと思います。
その間は、心の平穏を保つために気を紛らすことも忘れずに。 例えば趣味を見つけるとか。さとこさんは薬膳、私は温泉でしょうか。
――連載が進むに連れ、麦巻さんの表情がどんどん明るくなっていくように感じるのは、水凪さんのそんなお気持ちも入っているのですね。
水凪 そうですね。さとこさんは少しずつ元気を取り戻してほしいと思っています。ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです。
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