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文章だけ使って、リアリティある虚構を築きたい

「大きいテーマとしては、あまり変わっていない気がしますね。ひとりの人間が内側に抱えられる引き出しの数なんて、きっとそんなに多くない。あとはそれをどう表現するか、どんな文章にしていくかを試行錯誤し続けるんでしょうね。これから先も、そのあたりを模索しながらずっと書いていくのだと思います」

「書き方」については砂川作品といえば、精緻な描写が大きな特長。今作でもそこが読みどころのひとつで、たとえば冒頭でサクマが災難に見舞われる場面も迫真の筆致だ。

 ――風の音がする。汗と雨水が風圧で後ろに流れて首筋で合流した。前輪は高速で回ってアスファルトに溜まる雨水を一定のリズムではね上げていた。自分の吐息が誰かのものに思えた。―― (『ブラックボックス』)

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撮影:杉山秀樹/文藝春秋

 こうした状況や動きの描写もさることながら、自転車便メッセンジャーたちの生態、事務所内の乱雑さ、ストーリーの後半に出てくる刑務所内の様子などの描き込みもまたすごい。ありありと眼前に情景が浮かぶようだ。これは取材を重ねて書いている?

「いえ、基本的には想像です。資料などにはあたりますけれど。メッセンジャーの雇用形態や給与体系くらいまでならすぐ調べられるので。

 なので実際のメッセンジャーの方々の様子や刑務所の内実とは、合致しないところがたくさんあるはずです。そこはもう虚構で組み立てていくしかないと覚悟を決めています。

 現実と違ってもいいと思うようになったのは、以前の作品で好き勝手に戦闘の様子を書いたところ、たいへんリアリティがあると評価いただけたことがあって。そうかリアリティとは、現実とどれだけ一致しているかどうかではないんだと、勇気をもらえたんです」