デビュー作執筆時にはまだ自衛隊にいた。現在は転身し、区役所職員として事務の仕事に就き、都内で家族と暮らしている。
受賞の報は仕事を終えたあと自宅で受けた。家族の反応は? と記者から問われると、
「妻はよかったねと言ってくれましたけど、上の子はゲームで伝説のポケモンをゲットする最中だったので、見向きもされなかった。下の子は『このあとちょっと出かける』と伝えると泣いてしまって。そのまま出てきたので妻に申し訳ないことをしました」
当人は大変だっただろうけれど、聴く側には微笑ましいエピソードを披露してくれた。
受賞作『ブラックボックス』は、愛車を駆って都心を回る自転車便メッセンジャー・サクマが主人公。社会との繋がりが希薄な彼は、抜け出し難い何か大きなサイクルの中でもがき、苦境に立たされる。それでも読む側には不思議なほど、「サクマはここでたしかに生きているんだな」という実感が強く迫る。
彼が送る日々についての手応えある描写は、作者本人のたしかな生活あってこそのものかと想像させられた。
奥様からのお言葉は?
一夜明け、改めて話を伺った。
受賞の晩は時世に鑑み、祝いの席は設けられず、まっすぐ自宅へ戻ったという。改めて家族の反応はいかに?
「帰ると子どもたちはもう寝ていましたね。なので寝顔だけ眺めて」
奥様からのお言葉は?
「まずはおめでとうと言ってもらえたんですけど、そのあとちょっと怒られました。『子供を風呂にも入れずに出ていったでしょ』と。ごめんと謝って、自分も風呂に入って、洗濯物を干してから寝ました」
日頃は朝4時ごろに起き、執筆してから出勤するのが生活パターンだ。受賞翌日は、さすがに朝の執筆は休止。7時までぐっすり眠った。