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絵画「ナイトホークス」の、ガラス越しに見えるバーカウンターの佇まい
リアルすなわち現実にどこまで近づけるかではなくて、いかにしてリアリティある文章を書くかに注力しているということだろうか?
「そうですね。小説もそうですし他の創作も含めて、虚構の中に現れる手ざわりというか実在感みたいなものがすごく好きで、自作でもそれを出していきたい。たとえば米国の画家エドワード・ホッパーの『ナイトホークス』という絵画の、ガラス越しに見えるバーのカウンターの佇まいだったり。歌川広重の浮世絵版画の、画面の端っこのほうで笠をかぶった飛脚が走り去る姿だったり。
そういうさりげない背景の部分ってすごく惹かれるし、そこがリアリティを創り上げているのでしょう。小説でも同じことをやっていかねばと思わされます。文章という虚構だけを用いて、リアリティあるものを築くんだという気概を、いつでも持っていたいです」
高校時代に文学に親しむようになった砂川さんが、最初に夢中になったのは司馬遼太郎だった。砂川さんにとって「読む」と「書く」は近い位置にあり、読んだものが自身の養分となって書くものに反映されていく感覚があるという。ではいま読んでいるのはどんな作品?
「安部公房全集をゆっくり読みながら集めてます。最近はドストエフスキーとか、古典が多いですね」
そうした先人の作品が糧となって、近くまた新作が生まれてくるに違いない。
しばらくは、いまを生きる人物とその感情が活写され、疾走感と切実さに溢れた『ブラックボックス』を堪能されたい。