知名度の割に主演作品は多くない
仮に俳優のタイプを、太陽と月に分けるとするなら、伊藤健太郎は月のような俳優だと思う。自分が中心になって輝くというより、時には相手キャストの影になりながら映画の中心を周回することができる、衛星型の俳優だ。彼の出演歴を振り返れば、その人気と知名度の割に主演作品の比率はさほど高くないことに気がつく。
『コーヒーが冷めないうちに』は有村架純を中心にした映画だったし、『先生! 、、、好きになってもいいですか?』は広瀬すずと生田斗真が看板だ。しかし、そうした二番手、三番手という配役の中で光る演技を見せることで、彼は俳優としての地位を築いてきた。それは日本の芸能界のシステムでは簡単にはできないことではないだろうか。
『弱虫ペダル』では、のちに朝ドラでブレイクする永瀬廉演じるメガネの主人公に対置されるクールなライバルの役を好演している。名作の誉高い朝ドラ『スカーレット』はじめ多くの作品で、伊藤健太郎は太陽ではなく月として光るバイプレイヤーを演じ、役者としての評価を高めてきたと言っていい。
バイプレイヤーとしての彼のひとつの到達点は、『宇宙でいちばんあかるい屋根』だったかもしれない。大作映画ではなく、大ヒット作でもないが、この映画は清原果耶の初主演映画という特別な意味を持った映画だった。10代から高く演技力を評価され、日本でも有数の大手事務所に所属する清原果耶は、この先の日本映画を10年、20年支えると誰もが認める若手女優のホープだ。
その初主演映画にどれだけ力が入れられていたかは、キャスティングを見れば一目瞭然と言えるだろう。桃井かおりがメンター役を演じ、父親は吉岡秀隆、母親は坂井真紀。出演俳優の人数は絞り込まれているが、演技力を重視した超一級のキャスティングの中に、清原果耶が思いを寄せる大学生役として伊藤健太郎は出演している。
言ってしまえば王女の戴冠式で手を引く騎士に選ばれたようなものだ。それは人気や興行収入のそろばんとはちがう、名優ぞろいの映画を壊さない「芝居の力」で白羽の矢が立ったキャスティングだったと思う。
2020年10月の逮捕による大きな社会的制裁
だが誰もが知るように、彼は演技力とは別のところでその評価を壊してしまうことになる。2020年10月にメディアを一色に染めた彼の逮捕。実は、2021年3月、過失運転致傷容疑については起訴猶予、ひき逃げ容疑については嫌疑不十分となっている。だが、社会とメディアはあの事件を「無罪」とは記憶しないし、伊藤健太郎も何度も深く謝罪の言葉を述べている。もちろん、そうすべきなのだ。