「おはようございます、カンボジア国立銀行です」
2016年12月、会社でパソコンを開くと、SNSに1通のメッセージが届いていた。
読んでみると、それは「世界初となる中央銀行が発行するデジタル通貨(CBCD)の開発を手伝って欲しい」という内容だった。
「いやいや、よくある『1億円あげます』みたいな詐欺じゃないの?」
だが、半信半疑で現地を訪れると、待ち合わせに指定された場所は確かに写真で見た中央銀行だ。それから全力で開発に携わると、はや4年が経っていた――。
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日本ベンチャーがつくった世界初の中銀デジタル通貨「バコン」
カンボジアは2020年10月、先進国に先駆けて、中央銀行が発行するデジタル通貨「バコン」の運用を開始した。
米国IT最大手との戦いに勝ち抜き、最先端の中銀デジタル通貨を完成させたのは、創業わずか6年の日本のベンチャー企業「ソラミツ」だ。社員数は約100人という、少数精鋭部隊である。
社長の宮沢和正さん(65)は元ソニー社員で、黎明期から「Edy」の立ち上げに携わった日本・電子マネー界のパイオニアだ。バコンはソラミツが持つ最先端のブロックチェーン技術「ハイパーレジャーいろは」から生まれたデジタル通貨だ。
仮想通貨と聞けば、ビットコインやイーサリアムなど多くの“億り人”を生んだギャンブル的な通貨とイメージされがちだ。だが、バコンはカンボジア自国通貨のリエルや、国内で広く流通する米国ドルと価値を連動させた、中央銀行発のれっきとした“法定通貨”である。
一方、日本はEdy、nanaco、WAON、交通系のSuica、PASMO、QRコード決済はペイペイ、LINEペイ、メルペイ……とさながら、“電子マネー戦国時代”の様相を呈している。
天下統一の日は近いのだろうか。そのキーマンは、静かに日本の電子マネー界の未来を語り始めた。
「不便だと思いませんか。『財布』が増えすぎて、利用者も店も困っています」