カンボジアは2020年10月、先進国に先駆けて、世界初となる“中央銀行が管理するデジタル通貨”「バコン」の運用を開始した。既に国民1670万人のうち、約2分の1にあたる790万人が利用しており、カンボジアは一気に電子マネー・先進国の地位に上り詰めた。
米IT最大手との戦いに勝ち抜き、世界初の偉業を達成したのは、創業わずか6年の日本のベンチャー企業「ソラミツ」だ。社長の宮沢和正さん(65)は日本の電子マネーの草分け「Edy」の立ち上げに携わった、電子マネー界のパイオニアだ。
世界に目を向けると、カンボジアの他にも、2月に開幕する北京五輪に合わせて、中国が「デジタル人民元」を本格稼働させる。ほかにも、21年9月には中米・エルサルバドルが法定通貨に「ビットコイン」を採用するなど、通貨のデジタル化は急速に進んでいる。
そんな中、宮沢さんはいまの日本に大きな危機感を抱くという。
「何もしなければ、デジタル人民元に日本が乗っ取られますよ」
日本にもデジタル通貨の導入が急務という宮沢さんが考える「危機」の正体とは、一体なんなのだろうか?
◆
「デジタル人民元」の流入危機は日本にも…!
「いま私が心配しているのは、北京五輪で“お披露目”が予定されている『デジタル人民元』の他国への流入です。カンボジアも中国とのつながりが強いことから、デジタル人民元が国内に流通することに危機感を持っていました。周辺国ではラオスも同様です。
デジタル人民元を使った取引データは中国政府の手に渡ります。仮に日本国内に流入し、利用者が増えれば、どこで何を買ったのか、情報が全部とられ、利用者の行動は監視されることになる。流通する日本円が減れば、金融政策上も支障が出てきます。
『日本国内で、デジタルとはいえ他国の通貨がそんなに広がるの?』という疑問もあるでしょうが、インバウンド消費で日本国内が潤った際には、銀座の百貨店や家電量販店の多くが中国人客を取り込もうとウィーチャットペイやアリペイでの支払いを導入しました。
中国人観光客がデジタル人民元を使い出せば、そういった多くの店舗が導入を始めるでしょう。そして、日本の電子マネーよりもデジタル人民元の利便性が高ければ、当然日本人にも利用者が出て来る。安全保障上の問題は、政府も日銀も共有しているはずなのですが…」
中国政府のデジタル人民元への取り組みは本気だと宮沢さんは語る。
「習近平国家主席が国策としてブロックチェーン技術の開発を進めており、『世界最先端を目指す』と宣言しています。ブロックチェーンを使う企業に助成金を出す政策まで始めています。