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「私をお嫁さんにと思ってたのは本当なんですよ」漫画家・水野英子が語る、赤塚不二夫や石森章太郎と過ごしたトキワ荘での7ヶ月

『少女漫画家「家」の履歴書』より#2

source : 文春新書

genre : エンタメ, ライフスタイル, 読書, 歴史

note

映画やオペラやバレエを観て描いた『白いトロイカ』

 翌年、再び上京した水野さんは『星のたてごと』『白いトロイカ』等の代表作を次々と発表。

 私の漫画がモノになっているので、祖母は仕方なく上京を許してくれました。ただしワンシーズンごとに帰省するという約束です。再上京すると、新人漫画家の登竜門となったトキワ荘は入居したい人たちの長蛇の列で空きがなく、雑司が谷の下宿を借りました。

水野英子さん ©️文藝春秋

 敵同士の姫と騎士が愛し合う西洋ロマン『星のたてごと』の連載が終わった翌年の63年に祖母が亡くなり、その後はずっと東京暮らしです。漫画家は男という時代で、雑誌で描く女性は長谷川町子さん一人くらいでしたが、その後上田トシコ、わたなべまさこ、牧美也子さんなど女性の描き手も登場して、にぎやかになってきました。当時の少女誌にはちばてつやさん達、70年代漫画黄金期に活躍する男性作家も描いていました。彼らは描写から奥行きのある物語を作るという少女漫画の基本を体得し、「少年マガジン」等で漫画の幅を広げたんです。

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 64年に「週刊マーガレット」でスタートした『白いトロイカ』はロシア文学の異国情緒や小学校の時に観た、ロシア・アニメ映画『せむしのこうま』のキラキラ光り輝く画面に憧れて執筆しました。でも、ロシアのビジュアル資料なんて少ない。だから歴史と文学を学び、映画、オペラやバレエを一所懸命に観に行きましたね。そうして吸収したものをちりばめて描いたんです。反響は大きく、連載中でトップの人気でした。

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