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ロックに出会って、全米一周の取材旅行。第二の青春で『ファイヤー!』を描く

 その後、さすがにアシスタントさんのお手伝いなしでは週刊誌に対応出来なくなり、所沢市の3LDK、30坪の家を買ったんです。ガレージ付きで車も購入しましたが、運転する隙もないので、すぐに手放しちゃいました(笑)。

 1969年に連載を開始した『ファイヤー!』では男性を主人公に据え、スケール大きくロックとカウンターカルチャーを描き話題に。第15回小学館漫画賞を受賞する。

『ファイヤー!』水野英子(著) 朝日ソノラマ

 ビートルズの曲はクラシックに比してパワーはあるけど、私は単純な曲に感じてました。その後、ジミ・ヘンドリックスやジャニス・ジョプリン、ピンク・フロイドが世界を変えるような勢いで出てきた。この新しい音楽にはメッセージがありました。

「今の体制をぶっ壊す。産まれたままの姿から始めよう」という思想に共感して『ファイヤー!』を描こうと燃えたんです。それで単身で英語も満足に話せないのに構わず全米一周し、次にロンドンへ。アメリカの町々で演っているアンダーグラウンドのライヴ、イギリスではカーナビーストリート、キングスロードを巡ってね。ヒッピーたちに混じって、服装から雰囲気から全てが心躍る1カ月でした。トキワ荘が最初の青春だとしたら、この旅は第二の春です。

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水野英子さん ©️文藝春秋

 連載にあたっては、編集部にまともに話してもOKが出ない。当時日本ではテンプターズとかが流行ってたので、「グループサウンズ漫画よ」と編集部を説得しました(笑)。だけど連載当初は、初めて少年が主人公でロックの世界観、躊躇なくラブシーンも描く内容ですからファンレターが一通も来なかった。

 回が進んで主人公のアーティスト、アロンが活躍し始めると作品のメッセージが伝わったのか、怒濤のごとく反響が届きました。ラスト、アロンは死ぬのかと訊かれましたが、私は単なる結末以上にテーマを深める終幕を狙っていた。だけど、あと6回を残すところで打ち切られました。