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「稼げない私に価値はありますか…」歌舞伎町で出会った少女が、風俗の閑散期に漏らした「嘆きの理由」

著者は語る 『「ぴえん」という病』(佐々木チワワ 著)

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『「ぴえん」という病』(佐々木チワワ 著)扶桑社新書

 ぴえん。今にも泣きだしそうな表情の特徴的な絵文字とともに10代~20代のあいだで定着している若者言葉だ。主に「かなしい」「残念」などのニュアンスで用いられるが、現在では行動様式やファッションを表す用語にもなっている。

「『ぴえん系女子』とは、いわゆるメンヘラ気質であったり、目元にクマをつくる精神を病んだふうのメイクに、ロックやゴシックの黒系のコーディネートをしている子のこと。彼女たちがよりどころとしていた街が、歌舞伎町でした」

 そう語るのは、初の著書『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』を上梓した佐々木チワワさん。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスに在学中の現役学生で、自身も10代から歌舞伎町に出入りをしていた。

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「はじめて足を踏みいれたのは高1の大みそか。友達と一緒に家出した先が歌舞伎町でした。それからときどき遊びにいくようになったんです。当時からライターをやったりビジネスコンテストに出たりして、肩書きを持って活動することが多かった。でも、歌舞伎町ではただの若いお姉ちゃんとしか見られないから、楽なところがありました」

 本書では、ぴえん系女子をはじめ、新宿・歌舞伎町に集まるZ世代の若者の実情をレポート。彼らのカルチャーや価値観を、社会学的アプローチで考察した。

「歌舞伎町を研究したいと思ったのは、大学に入ってから。自殺の名所で有名なビルでじっさいに自殺を止めたことがあって。ソープで働いてホストに貢いでいる“ホス狂”の子でした。風俗の閑散期だったのですが、『稼げない私に価値はありますか』と言われて。そのとき、歌舞伎町における消費と価値について考えるようになったんです」

 ホームレス暴行事件などで話題になった「トー横キッズ」も、最初期の2018年頃から見ていた。

佐々木チワワさん

「SNSに自撮りを上げて交流していた子たちの待ち合わせ場所が、新宿東宝ビル横だったんです。そこにたむろする少年少女を、ホストとその客の風俗嬢やキャバ嬢がキッズと呼びはじめたのが最初。だから、トー横キッズって絶妙な悪口なんです。しだいに、ぴえん系や、ドンキの公式キャラクターのTシャツを着る“ドンペンコーデ”など、服装にも統一感が生まれていった。それがカルチャーとして全国に広がっていったのは、面白いですよね」

 SNS世代の価値観と密接に結びついているものに「推し文化」がある。歌舞伎町では、トー横界隈の青年も働いているボーイズバーなどの店員も、推しの対象になる。最たる例がホストクラブだ。今、空前のブームを迎えているという。

「SNSに力を入れるようになってアイドル化したんです。動画を見て『かっこいい、会いたい』と思ったらホストだったとか。『推しに会う』と言えば、昔と違ってイメージも悪くないですから。また、ホス狂の子にもぴえん系は多くて。私もハマった時期がありますが、彼女たちは本当にすべてを捧げていて、それはすこし羨ましかったです」

 日々「いいね!」「フォロワー数」といった数字に晒されているSNS世代。本書が記す歌舞伎町のぴえん系女子と男子のエピソードからは、それぞれのかたちで自己承認を求めている姿が見えてくる。佐々木さんは「同年代にも、大人にも読んでほしい」と語る。

「歌舞伎町だけの話ではなく、自分ごとだと思える部分もあるはずです。大人の人には、子供の言う“推し”の輪郭を掴んでほしい。若い世代の価値観に関心を持ってくれたら嬉しいです」

ささきちわわ/2000年生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)在学中。歌舞伎町の文化とZ世代にフォーカスした記事を多数執筆している。本書が初の著書。

「稼げない私に価値はありますか…」歌舞伎町で出会った少女が、風俗の閑散期に漏らした「嘆きの理由」

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