1月末の凍るように寒い夜。突然スナックの店内に入ってきたヤクザが銃を乱射した。抗争相手のヤクザをターゲットにした襲撃だったが、一般人3人を含む4人が死亡。無辜の人々が巻き込まれる痛ましい事件は当時盛んに報道され、後に実行犯ら計3人の死刑が確定した。2003年1月25日に発生した『前橋スナック銃乱射事件』だ。
「文春オンライン」取材班は、実行犯だった小日向将人死刑囚が書いた手記を独占入手。関係者によると2018~2020年頃、収監されている東京拘置所で書かれたものだという。手記は便箋250枚以上にも及び、いずれも直筆で書かれている。ヤクザ社会での上下関係や日常なども吐露している貴重な資料でもある。
手記の中身に言及する前に、いまいちど事件を振り返りたい。
事件史の残るヤクザの抗争が生んだ『前橋スナック銃乱射事件』
小日向死刑囚の確定判決文によると、事件が起きたのは2003年1月25日午後11時25分ごろ、前橋市三俣町のスナックだった。指定暴力団住吉会幸平一家矢野睦会の幹部だった小日向死刑囚と、山田健一郎死刑囚が拳銃を乱射し、一般人の客3人を含む4人を殺害。犯行の指示を出したのは矢野睦会会長だった矢野治死刑囚(2020年1月に東京拘置所で自殺)だ。
対立していた稲川会系暴力団元幹部の殺害を狙った犯行だったが、元幹部は銃弾1発が命中し、重傷を負いながらも一命をとりとめた。小日向死刑囚は逃亡先のフィリピンなどに入国する際に偽造パスポートを使用したかどで逮捕され、警察の調べで銃乱射についても全面自供。その供述が山田死刑囚と矢野死刑囚の関与など、事件の真相究明に繋がった。
その後の裁判で争点のひとつとなったのが、「小日向死刑囚がスナックでの銃乱射を自主的に行ったか否か」だ。裁判で、「矢野に『撃ち合いになる』『危険すぎる』などと話した」と主張する小日向死刑囚に対し、山田死刑囚は「全くのでたらめ。証言の7、8割はウソ」と否定。小日向vs.矢野・山田での対立が続いた。警察関係者は全面自供した小日向を支持していたが、ヤクザのなかでは「“親”を売った」と小日向への批判の声が大きかった。
結局は小日向が自主的に襲撃を実行したかどうかにかかわらず、銃を乱射し4人を殺害した事実で2014年3月までに小日向ら3人の死刑が確定した。
「獄中でクリスチャンに」死刑囚の懺悔のカタチ
小日向死刑囚はそれから現在まで、いつともしれぬ死刑執行を待っている。
担当弁護士によると小日向は獄中で「反省の日々を過ごしている」という。2020年10月には獄中でキリスト教の洗礼を受けている。キリスト教では、罪を告白することが懺悔となるとされている。手記は小日向の懺悔のかたちということだろうか。
「二度と悲劇的な事件を起こさないために書いたのが一番。もし出版されたら印税も被害者遺族に渡したいと言っている」(担当弁護士)
しかし「二度と悲劇的な事件を起こさないため」というのは、加害者の言葉としては当事者意識に欠けあまりに無責任だ。小日向死刑囚は自らが起こした『前橋スナック銃乱射事件』を、いまどう受け止めているのか――。