「小日向は手紙で事件への反省を綴っているのですが、一方でずっと、矢野死刑囚に対する恨みつらみを解消できずにいるようでした。これは前を向けていないな、と思ったんです。そこで、被害者に対する謝罪の気持ちともっと向き合うために手記を書いたらどうかと言いました」
それから小日向死刑囚は約2年をかけて、「文春オンライン」が報じた便箋約250枚の手記を書き上げたのだ。
「当時はこんな風に世に出るとは思わなかったけど、結果的に良かったのではないかなと思っています。
そして私も手記を読んで、納得しました。小日向がなぜ前橋スナック事件という、一般人を巻き込んだ大事件を起こしてしまったのか。襲撃を上から『ゲームだ』と言われて断れなかった。そしてスナック内にいるのはみんな対立組織の関係者だと思わされていたんですね。
小日向は命をかけて、人生をかけてヤクザをして、最後の最後に無理難題を押し付けられてしまった。ヤクザだった身からすると、やっぱり上からの指示を断るのは難しい。私は幸い、人に恵まれていましたから……」
「小日向は人間らしさを取り戻している」
そうして小日向は、獄中で人生を終えようとしている。
「私は死刑には絶対に反対です。死刑廃絶が進む国際社会から取り残されますし、近年は『死刑になりたい』と言って周りを巻き込む事件が本当に多い。クリスチャンとしては、人の命はあくまでも神様が握っていると考えます。人間のすることには間違いだってつきものです。冤罪だってあります。法による復讐劇で、被害者は本当に報われるのでしょうか。
それに死刑は加害者が人間らしい心を取り戻す機会を奪うことになる。現に小日向はどんどん人間らしさを取り戻しているんです。19年前の小日向と今の小日向は別人ですよ。再審請求などができればいいのですが……」
小日向死刑囚の死刑が確定してから、約12年7十カ月の時が流れた。司法記者によると、近年の死刑執行は確定から十数年後に行われることが多いという。(#6に続く)
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