「親の病気を誰にも知られたくなかった」
「統合失調症の家族を知られることは恥ずかしいと思った」
蔭山は「社会の偏見を恐れて周りに言えない、相談できない場合が珍しくない」と話し、社会や学校で精神疾患への理解を広げていく必要性を指摘する。学校が家庭の事情を知っていても「教師の差別的な言葉に傷ついた」という回答もあったという。精神疾患への理解が十分ではない環境が、子どもを追いつめている様子がうかがえる。
政府の全国調査に関する検討委員会で座長を務めた森田久美子(立正大教授)もまた、子どもがSOSを出せるかどうかについて「ほかの子と違うと思われたくない、かわいそうだとネガティブな視線を向けられたくない、ということも関係する」と言う。ヤングケアラーの支援には、制度設計の前提として、障害や介護に対する否定的なイメージの軽減、社会の意識変化が欠かせないということだ。
手探りの学校現場
ところで、政府の全国調査は生徒のみならず、生徒が在籍する学校も対象だった。
調査対象の中2、高2が通う全国の公立中学1000校と全日制高校350校に、政府はアンケートを実施した。公立中754校と全日制高249校が回答し、ヤングケアラーの早期発見と対応に苦慮する教育現場の姿が浮かんだ。
「生徒の多くは、家庭の困りごとのサインを一切出さず、隠すのがうまい。態度が豹変するといった兆候がない生徒へのアプローチは非常に難しい」
京都府のある全日制高校はそう報告し、保護者へのアプローチも困難だとしていた。
「問題を抱えている家庭の場合、三者面談にも来ず、電話にも出ないことがよくあり、保護者と話すこと自体が難しい。こういった場合は専門家に任せないと難しい」
その高校は「学校ができることはあくまで教育。福祉や行政的な支援ではない」と割り切っていた。ヤングケアラーの家庭にどう関わるべきか、学校の戸惑いや限界を訴える声は他にもあった。