「今シーズンをもって監督は退任しようと思っている」

 プロ野球キャンプイン直前の1月31日、阪神の矢野耀大監督が異例とも言える「今季限りでの退任宣言」をした。これから新たなシーズンがスタートしようとする時期での唐突な宣言は賛否両論を巻き起こしている。果たして、この「矢野宣言」がチームに与える影響は何か。野球解説者であり、昨年、『阪神タイガース ぶっちゃけ話』(清談社)を上梓した阪神OBの江本孟紀氏(74)に聞いた。

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「自らの監督としての能力のなさ」を露呈

 まさに前代未聞と言っていい。キャンプイン前日のミーティングで全選手を前に矢野監督は自身の今季限りの退任を伝えた。その場に居合わせた全員がさぞかし驚いたことかと思うが、これは阪神、いや野球界のいちOBである私も同じだった。

 同時にこうも考えた。はたして矢野監督は、「今年限りで辞める」と自身が口にしたことによるその後の影響を考えたうえでの発言だったのだろうか――。

 私は何も考えていなかったように思える。それ以上に「自らの監督としての能力のなさ」を露呈してしまったのだと感じた。

キャンプで選手の様子を見守る矢野監督 ©時事通信社

 監督の去就というのは本来、球団のフロントが決めるものである。もし自身で去就を決めるとしたら、成績不振で終わった責任を取る、あるいは体調不良でこの先監督を続ける体力と気力がないという、大きく分けてこの2つの場合が挙げられる。

 それにもかかわらず、矢野監督は自ら監督の座を放り投げてしまった。「あえて退路を断った」という好意的な見方をする人も一部のファンの間では見られたが、私は「熱狂的な阪神ファンや口うるさい関西メディア、阪神OBの重圧に耐えられなかった」ととらえている。

「これで思い切って自分の野球ができる」と言った意味とは?

 同時にもう1つわからないのが、退任発言をしたことで、矢野監督が「これで思い切って自分の野球ができる」と言ったと報じられたことである。これはどういう意味ととらえればいいのだろうか。監督として指揮してきたこれまでの3年間、「思い切った采配」がふるえなかったと言いたいのか。もしふるえなかったとしたら、その理由は何なのか。まったく解せない。

全体ミーティングを行う矢野監督 ©時事通信社

 阪神のフロントはどこかの某球団のように、監督の選手起用について口を挟むような人はいない。スタメンをオーナーが決めることなどまずありえないし、選手起用について問題提起するような人もいない。むしろ「現場の選手起用は監督がすべてお決めになってください」という姿勢であるから、思い切った采配をふるえるだけの土壌があるのが事実だ。

 阪神ファンや関西メディア、阪神OBの声に耐えられないというのであれば、残念ながらそれは人気球団の監督を務めるだけの資質が欠けていたと言わざるを得ない。ライバル球団である巨人の原辰徳監督は、あらゆる方向から猛烈な批判の矢が向けられようとも、まったく意に介していない。それだけ度量が大きいという証拠でもある。こうした一面があるからこそ、原は監督としての資質が備わっていると私は評価しているのだ。