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「言われた本人があんまり怖がってないんですよね」ストーカー行為に“脳がブラックアウト”した女性を追い詰める、警察の“無神経すぎる”一言

『ストーカーとの七〇〇日戦争』より #1

2022/03/08

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 読書, 政治, メディア

note

刑事の顔を曇らせたのは

 刑事さんと目が合うたびに、あの男とあんなことをしていたのかと思われているんじゃないかと気分が沈む。いい歳をしたババアがなにやってんだくらいのことは、皆さま内心思っていても不思議じゃない。口に出さず、なるべく顔に出さないようにしてくださっているだけ、ありがたいっちゃありがたい。

 もちろん刑事さんたちも好きで読んでいるわけじゃないのは分かっている。そして現行の法律に忠実に従って、なんとかAの悪質な行為を罰せられないかと一生懸命検討してくださっているのも分かる。けれども。

 むっつりと黙り込んだ私の顔を見て、刑事さんは話を続ける。

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「脅迫罪は、親告罪ではないのですが、被害者による被害届の提出が必要です。で、被害届を受理したら、加害者の本名をお教えすることができます」

 ああ、そうなんですか……。本名だけ、ね。前科前歴の有無は、教えてくださらないってことである。自分でどこまで検索することができるだろうか。殺人などの重い罪なら新聞記事検索で出てくるだろうか。こちらとしては、Aの本名なんかよりも、Aが私に隠してきた、そして警察が秘匿しているAの前科前歴もしくは逮捕歴を知りたいのだが。

「そもそも内澤さんは、あの男とどのように知り合ったのでしょうか」

 ヤフーパートナーというマッチングサイトです、と言うと、刑事さんの顔が曇った。はいはいはい。分かりますよ。言いたいことは。

 一応真面目なサイトというふうに聞いて登録したんですけど。身分証明書の提示が必要ってことになっていると聞いています。偽名でも登録できるみたいですけどね。

「それはつまり、結婚を目的としたサイトということですね」

 まあそうです。と答えながら、脳内では大ブーイングが沸き起こる。

 ★は─―――。勘弁してくれよ。なぜ人々は「出会い系」つまりセックスだけが目的の交際と、結婚目的の交際との二択しかこの世にないかのように語るのだろうか。私のようなバツイチ中年女がセックス目的でもなく不倫でもなく、結婚を前提ともしない、それでも誠意ある交際相手を探しちゃいけないんだろうか。★